両想い前提のクライヴとジルが多めです。


お手伝い(ロズ兄弟+ジルちゃん)


ジルがダブアンドクラウンのカウンターにて腰掛けながらモリーとメイヴとちょっとした雑談を楽しんでいる。
その手には小さなナイフを持って🍎や🥕の皮を向いている。
この調理場では出た野菜くずや皮はもちろんそのまま捨てずに植物園へ持って行って肥料へとするのだ。食べる前も食べた後も何一つ無駄にはしない。

彼女のその後姿を兄弟ふたりでテーブルについて静かに見届けながら—。

ジョシュア(小声で)「兄さん、見て」
クライヴ(静かに)「ああ…。そうだ、いい考えがある。ジョシュアがニンジンを克服出来るようにすりおろしてもらって飲み物にするか」
少しムッとしてそういう意味ではないでしょうと視線を送る弟に対し。
分かっているさと兄は口角を少し上げて。

(少し懐かしいと思った。ロザリスで侍女たちとあのように僕らの為に動いてくれていたから)
歴史を終え寂れていく首都を直接目にすることはなかった弟は過去を思い起こし。
(人らしくと何度も君と語り合ってきた。そして人へと先に戻った君はこうして俺たちの単に動いてくれている)
彼女と心の繋がりも持てた兄の方は紡がれて来た想いとその想い人とこれからのことを思い浮かべる。
兄弟そろって向かい合ってから再びその後ろ姿を見守ることにした。
過去と現在、そして未来への想いを兄弟ふたりそれぞれ紡ぎながら。


向き合う(バイロン叔父さんとクライヴ+ジル)


鉄王国へと向かう前―。港でようやく心情を吐露出来たジルを屋敷の中で先に休ませて、静かに扉を閉めて出て来たクライヴをバイロンが近づいて声を掛ける。

バイロン「クライヴよ、彼女の様子は…」
クライヴ「落ち着いて眠りについています」
バイロン「そうか。気になっていたので良かった。わしがアナベラのことをあれは獣のようだと語ったときから様子がおかしかった…」
クライヴ「……ここへ来る5年前まで俺たちは離れ離れで…とても誰かに話せるような生き方は出来ていなかった。
目は合わさない言葉も発せない、意志など必要ない。与られた任務…命令だけをこなす。それだけの日々だった」
バイロン「ジョシュアだけでなく、お前も彼女もドミナントだったというのは流石に驚いたぞ。イフリートとやらは正直わしにも良く分からん。
シヴァに関しては…クライヴよ、お前の祖父の時代について兄上から聞いておるな?」
クライヴ「はい。当時はシヴァの勝利だったと」
バイロン「…だが北部は内部の分裂で兄上の時代に平定された。当時のシヴァのドミナントも姿を消し…民の為にと立ち上がった女性だったとわしは聞いた」
クライヴ「…」
バイロン「…北部はもう国としては存在していない。彼女が来るまでシヴァのドミナントも噂が真実なのか分からなかったが…これが現実だというのならわしは多いに悪党のお仲間として暴れさせてもらうぞ」
クライヴ「…叔父さん」
バイロン「さっきも伝えた通り、お前の癖は分かっておる」

お前には嘘をつく時に癖がある。
バイロンとしては照れ隠しで放った冗談のつもりだった。
真面目なふたりは思わず互いに向かい合いそうなのかと確認し合っていたが。
5年も連絡すら無事なのだと寄越さなかったのだから―そう出来なかった理由はきちんと受け入れている、兄上の魂が生きているのだとその証を今目の辺りにしている―少しくらい意地の悪さを見せても良いだろう?
クライヴ「ありがとうございます」
バイロン「その言葉、彼女にも伝えてやってくれ。さっきのお前たちの様子からお前に向き合い支えてくれているのだとはっきりと分かったからな」
クライヴ「もちろんです」
バイロン「昔から素直だったな、お前もジョシュアも。変わらない可愛い甥っ子たちだ。
それと彼女とはそれほど交友はなかったわしだが、あの子も変わらずお前に対してまっすぐなのだな」
振り返ってジルが休んでいる部屋の扉を眺めるクライヴ。
バイロン「そうした子が…望まない戦いに連れ出される日々だったこの世界はわしとておかしいと思う。アナベラの圧政が怖くてこれまでウェイドたちを裏から支えるくらいだったが…」
向き合うべき時が来たのだとバイロンはそう語る。
クライヴ「マザークリスタルドレイクブレスを破壊後俺たちはすぐに鉄王国を脱出します。
まだ捕虜として捕らえられているロザリアの民を受け入れる準備をお願い出来ますか」
バイロン「おお、そうだな。まずは目の前のことからだ」
クライヴに軽く手を上げ、バイロンは一二歩進んだ後―。
バイロン「そうだ、クライヴ。知っておるか」
可愛い甥っ子をからかう昔よく見た声の調子とその楽しそうなバイロンのその笑みに。
クライヴ「どうかしたんですか」
真面目に答えるクライヴだったが。
バイロン「シヴァは大変美しい女性で多くの者が見惚れていたとも聞いた」
何かを察しているのか腕を組みながらこの叔父はにこにこと笑いながらそう教えてくれた。
クライヴ「…はい」
バイロン「見惚れても構わんのだぞ」
返事を待つこともなく後のことはわしに任せなさいとどこか軽い足取りで去っていく恰幅の良い叔父の姿を見送ってから、彼は軽くため息を吐いて。

(民の為にと立ち上がった―)

叔父のその言葉を思い返す。ジルもドミナントとして覚醒したのなら誰かの為にとそう願っていたはずだ。
今はその力を自分達へ―自分を守る為に使ってくれている。
そして今度は彼女自身の過去と因縁へ向き合う為に。

共に行き、共に戦う。
そしてその後は再び―。

(支えるだけじゃない、君と向き合おう)

※この時のクライヴはまだ人として共に生きていくという決意までは至っていなかったのだと考えています。


・揃って

クライヴとジル&ヴィヴィアン先生

眠りに着く前にと少年の時から耳に付けていたロザリア公国の国章であるフェニックスが彫られた耳飾りを外してテーブルの上の小物入れ皿に小さくかちゃんと置くと。
ちょうど部屋の扉を軽くノックしてジョシュアがマードック将軍の甥と共に姿を見せた。明日の石の剣のメンバーと共にアカシア討伐に向けて最終確認に来たのだ。将軍の命は己の意識が完全に飛んで無かったとはいえ、俺には責任がある。
命を落とすようなリスクを冒さない確実な倒し方についてきちんと話し合ってからすぐに俺たちも合流する、無理だと思うのなら身を引くことも重要だと再度告げて明日の為に早く休むように勧めた。
耳飾りを外していたためか、部屋を出て行く前にクライヴ様とジョシュア様のそれはお揃いなんですよね。良いですよね、そういう揃いの。
俺には兄や弟がいないから、何だか羨ましいです。そう明るく話してくれて私室から出て行った。
「大事にずっとつけてくれていたんだよね」
ジョシュアが嬉しそうにそう微笑んでくれた。
「もう捨てた名と国だとそう思われていたからな…外そうが外さまいがあいつらにとってはどうでも良かったんだろう」
「でも、僕らにとっては大切なものだ。ずっと変わらずにね」
「ああ、そうだな」
少し弟が考えるポーズを取ってから、
「良い事を思いついた。兄さん、明日のアカシア討伐が終わったらジルと一緒にまだ開いている店に寄ってみたら。ジルと兄さんが気に入ったものを揃いで買うと良い」
そう提案してきた。

そうしたらまた喜んでくれるよとこうした面は弟の方が鋭いのだなとそう感じた。

結局クリスタル破壊の影響でダリミルの市場もかなりの店が閉じており。
揃いの器でもさらに追加しようかと思ったのだが、こうした情勢だからね。子どもが産まれたばかりの若夫婦にお祝いとしてナタリーアがつい最近贈ったんだ。次のがいつ入るのかこっちも分からないとそう断られてしまった。
かえって申し訳ない気持ちでいると、こうして揃って買い物や食事に回れただけでも嬉しいのとジルは柔らかく微笑んでくれる。
(揃ってか…)

そう言えばまだそのことで出来ていないものがある。

揃いの器は駄目だったが代わりに叔父さん専用のエール杯を土産にと。
喜びの涙を流しながら抱きしめる相手役はジョシュアに任せ。

真っ直ぐにヴィヴィアンの部屋へ向かった。
ふたりで揃って恋人となったとそう報告した。
「…知っているが」
私は子どもではないし、それにここの子ども達はミドの影響もあって賢いだろう。
少々呆れ気味な彼女にヴィヴィアンは俺に関する対人関係も良く見てくれているだろう、なら皆へ報告する前に一番に知らせて起きたかったとそう続ける。
「これから先、決めたことをふたりで成し遂げて行きたいんだ」
「足踏み揃えながらね」
モノではないお揃いのもの。
形作る揃いのもの。それが共に生きていくという誓いと歩み方なのだ。
「しっかりと記しておいたさ。先にウォールード王国に君たちが行ってからそうなったのだろう」
ヴィヴィアンは普段通りの彼女らしい口調でそう話す。
「良く分かるな」
「雰囲気が変わったからな。皆ももう知っているだろう。ああ、君の弟は問い質すまで随分と怒っていた様子だったが」
「しっかりと怒られたさ」
「なら、良かった。そうした時も必要なのだとここに来てからそう思えるようになったからな」
「あなたも良かった、ヴィヴィアン」

ふたりが去ってからヴィヴィアンは再びヴァリスゼア大陸の地図を眺める。
あてられたのかな、と思いながらもこれもまた彼らがこれからは人の歴史を紡いでいくひと時でもあるのだなとそう和やかに微笑んだ。

・宵(ジル→クライヴ)


宵の内に廃屋とはいえ、一夜は過ごせそうな皇国領内ロザリアにおいて針葉樹林がまだ並び立つ森の中。
黒の一帯の影響でどれほどの村や集落は人が住めず捨てられたところへとなったのか。
少年の時に蛮族退治へと向かってからかつては人々が住んでいた家々が打ち捨てられそこに居座っている魔物たちからも戦いながら困惑をーいや、彼らも結局のところは生き残ろうと必死なのだー感じ取った。そしてヴァリスゼア大陸全体がこのような異変が起きているのだと遠征から戻った父親や兵士たちからの報告。
傍できょうだいの様に過ごしてきたジルからも。真っ黒な風景に別れを告げてここに来たのとそう一度だけそっと告げられて。
シドと抜け道だと案内されたグレードウッドにても南下している魔物たちの様子から各地の報告について暗殺部隊で駆り出されていた時に耳に入って来たものを語った。
日の傾きが早まっていく。ロザリアはすでに黒の一帯に沈んだ北部地方と隣国である為に冬が近づくと日暮れと共に一気に寒くなる。マザークリスタルドレイクヘッド破壊後に小麦の収穫が厳しくなった故に皇国領内で支配されている民に要求される税も高く生活は苦しい。かつて解決策としてドレイクブレスを奪還しようとしたのとは真逆に今は破壊の為に水面下で動いているなどこの民の誰にも告げられない。己のかつての立場を明かせないのと同じ様に。
それが真実であるのに。
新たな拠点となりそうな場所を見つけてまだ間もない頃。ろ過装置を作るよとミドのきっぱりとした宣言にクライヴとジルを含めかつての拠点で共に過ごした彼らと保護活動を兼ねて少しずつ増えて来たベアラーの家族たちも大きく頷いた。黒の一帯の中ではすぐに人が住めるわけではないので各地で動ける者は動いている。石の剣のメンバーもクライヴがリーダーとなり密接に協力を取る姿勢を作り出していた。ロザリアへ来た理由は木材だ。人が住むには地理条件はやや厳しい森の中。この辺りは黒の一帯が深刻化する前に人たちが移動していったのだろうと分かる。後はどう運搬するかだが、日数は掛かるが運搬用のチョコボは少し離れた村で何頭か貸し出しがあった。ここに寝泊まり出来るならオボルスの渡し船で運べる大きさに切り出せるだろう。
冬を越す為に蓄え残っていた薪をまだ使える暖炉に放り込んで掌に炎を宿らせ火を起こし。彼女と相棒を傍へ招く。残っていた器で付近の小さな村で買った茶の葉で熱めお茶を。りんごとパンをクライヴとジルはふたりで分け合いトルガルには倒してきた魔物の骨と普段から常備しているおやつで腹を満たしてもらうことにした。トルガルは携帯していた水入れから小さめの器に注いだ水をしっかり飲んだ後は戦いの後の疲れを癒そうと横たわった。
静かに目を閉じて先に眠りにつくことにしたらしい。
冷えて来たなと暗くなってきた周囲の様子から息を吐き、寒くないかと同じく暖炉の前で暖まっている彼女にそう声を掛ける。大丈夫よという意味で頷き視線をこちらに向ける彼女の顔を真剣に見つめ疲れているだろうから早めに休もうと勧める。特に何か合図があったわけでないがそう伝えてから距離を詰めお互いに寄り掛かった。
シドと誓い合った仲だと出会って間もない頃にミドにはふたりでそう話した。かつての拠点の仲間たちに名前や出身のことも尋ねながらガブが持ち出してくれた誓いの証を眺めながらそう伝えた。だからこそ、俺たちは皆から離れないと。
今は行なうべきことや目指すべきことの為にそうした仲だとお互いに考えている。

仲間だと。

宵は深まっていく。ヴァリスゼア大陸でどこでも見られる月は今日も輝きを見せているのだろう。空気が冷えて来た。静かに炎を眺めた。はぜる火の粉の音に紛れてお互いの息遣いもわずかに聞こえる。鼓動はそれほど早まっている訳ではないが落ち着いていられる。
君が生きてくれていたからこそこうして居られるのだ。
今は目の前のことをひとつひとつやっていくしかない。
シドとの誓いの為に動けるまでまだ時間がかかる。そして残された時は短い。この世界は未熟であり誰かに痛みを与えそして誰かに傷つけられながら進むしかないのだ。
それでもふたりだからこそ前に行ける。
ジルがうとうとしはじめた。疲れているのだから当然だ、優しく肩に手を置き先に眠って大丈夫だと彼女を見つめる。言葉にはしなかったが彼の想いは伝わったらしい。さらに身を寄せてくれて眠りに就きはじめた。

(私の心…動いている)
彼に気づかれない程度に早まる鼓動の意味についてはまだ伝えられない。
それでもこうして伝わってくる温かさに身を委ねられるのが、嬉しい。


・霧の中(ジル→クライヴ)

スリーリーズ湿地がこれほどまでに霧に覆われるのは久し振りだとマーサ含め村人たちが口々に言葉にした。すっきりとした青空が理により覆われ日数がかなり経った。
悲しみの入り江とは反対方向に幾らかアカシア化した魔物たちを討伐しながらここで起きた悲劇をクライヴは弟へと告げた。橋と繋がるオールドヒル造船所においての実の母が行なった惨劇も。
川にて彼らを弔った場所でそっと静かに彼らの死を悼む。その生そのものに敬愛を捧げながら。彼らの死はマーサにとっても当然忘れられず辛い出来事だ。
彼女も欠かさず村から教会を眺めて自分のやってきたことを受け入れて生きて行くんだと決意を固めていると教えてくれた。
13年振りにクライヴとジルは共に故国への帰還となってから緑の匂いや風のさわやかさは幾度となくここで感じて来た。青空が今は見えなくても黄昏行くロザリスに確かにあった思い出と同じく記憶には残っている。空は取り戻せるはずだと兄と弟、そして昔も今も彼らを気遣い支えてくれている幼なじみと相棒である狼と共に足を進めている。
霧の中であっても魔物の気配はトルガルがすぐに察知してくれるのでそれほど戦いには困らない。街道と並行して未完成のまま放置された水道橋を目印にしっかりと大地を踏みしめていた。

ジルは少女の頃は時折俯くクライヴの横顔を見つめ。そして今は体格の良さが背負っている剣からも分かる彼の背を見送ることが多くなったと感じている。
前をいく彼はトルガルに声をかけながら率先して盾となると再び誓った弟と恋人である彼女を守ろうと周囲を警戒していた。街道を外れた沼地では強靭なモルボルが出現して倒すのもスティルウィンドにウェイドやタイラーと討伐に出た時より苦労したと少し前に報告もあった。

霧の中であっても、シヴァの力を失ってしまっていても彼の気配は確かに分かる。
彼は今自分についこの間まであった氷の力も使えるのだが。その炎の力―イフリートではなくジョシュアが分け与えたフェニックスの祝福と共に彼本来にあった呼び起こす為の灯そのものであるーで彼女の心を灯し。そうして再び動かしてくれたのだ。
霧が濃くなっていく。喉にハッカのようにすっと水分が通っていくのにどこかつっかえるような感覚があるのはジルの隣に立つジョシュアと異なり、最後の戦いには一緒に行けないと分かっているからだ。

この背を、自治領ではジョシュアを抱きとめながらしっかりと見守って来た。
カンベルにて連れ去られて…あなたの腕の中に力強く抱きしめられた時も…まだ見届けられる、傍にいられるのだとそう思っていた。
すでに人ではないとあなたは語りながら、シヴァの力を吸収した。

私は、あなたから引き離された。あなたは、私を人に戻す為に引き離した。

咄嗟のことだったと思う。
ジルがクライヴの漆黒のマントを掴もうとしたのと。
ジョシュアが“クライヴ兄さん”と呼んだのは。

クライヴが振り向いてトルガルが立ち止まった。ジルはすっと手を引っ込めた。
彼のその深い青を携えた瞳が愛おしさを伝えるようにふたりを見つめる。
「霧が濃くなったな。オベリスクまではもう近いが…ふたりとも大丈夫か」
ジョシュアがしっかりと頷いて、ジルは静かに会釈をする。
気配は“分かる”。クライヴはそう語る。

けれど、実際にこうして目にして。ふたりの姿を見ていると…安心するな。

照れているというよりは、彼が人として弟と彼女を大切に想っているのだと優しい口調と雰囲気だった。
器ではなく、彼そのものがここにいる。
愛おしさがこみ上げる。
人でありたいと決意が沸き起こる。

何もかも覆われて消え去ってしまいそうな中で本来の彼が輪郭をもってくっきりと浮かび上がるのだ。だからこそ、弟も彼女も彼に誓った。

彼は笑みを浮かべ、相棒の頭を優しく撫でそうしてまた先に歩み出した。
ここにいるのはー…。

僕の兄さんだ。
私の宝物…。


3人と1頭が湿地帯から姿を去らせてから霧がしばらくして晴れていった。
そう遠くない日にこの場所で青空がまた広がるのを願うかのように。


・背中合わせ(クライヴとジル)


身を覆うものもなく。子どもの頃にメティアに祈った日と同じ様に月が輝いていて。
背中合わせにお互いの体温を感じているのに。同じものを見ていない。あなたが…あなたの心がどこかへ行ってしまいそうで。
沢山失ってその度に確かめ合って。精一杯抗ってきたはずなのに相手の思い通りでしかなかったのだ。
そしてあいつらにとって彼はもはや人とは呼べない存在なのだとはっきりと言い放ってきた。止まることは出来ないのに、手遅れだとあなたは語る。

(それとも、頼りない―?
そうじゃない…。)

いつも、ひとり。ひとりになってしまう。
シドが教えてくれた通り、あなたは自分を救わなければいけないのに。
大きな背中に寄り添い。あなたの手を取った。あなたをひとりにしない為にも私があなたを守ると。
彼は私の手の甲に誓いの口づけをしてくれて。
そうして向き合ってくれた瞬間―。力が抜けていった。
私が先に人へと戻されていく。
「どうして―…」
バルナバスが見抜いていた通りのことを彼が自らの意思で起こした。
私の罪を背負っても生きると。
あなたは…そう、本当に昔から変わっていない。自分の救いよりもいつも誰かを守る為に生きているのだ。
(私は変わったわ―…。だからこそ、わかり合える)
あの頃のままでは、戻るだけでは一緒にいられない。だからそう答えた。
あなたが変わっていないと分かっていたから。
その誰かに私も含まれている…あなたにとって特別なのだと伝わって来た。
背中合わせでは分からなかったこと。向き合ってからは…我慢をした。
それでもあなたの想いを受け入れられたから。

私もあなたによって満たされていく。