クラジルよりでジョシュアや拠点メンバーと。


縫う(タルヤ)


ひと言頼むと言われて差し出されたこの男の腕の怪我の処置をそしてそこを縫う。
縫合にだって痛みは伴うが刻印を取り除くにあたって高い熱を出した後すぐに動き出したこの男はそれにはまったく構わない。構うような状況に置かれておらず、自らの意思で険しく厳しい道を私たちとこのヴァリスゼアの為に選んでくれたのだ。
“また、ベアラーたちの為に治りかけの腕で飛び出したりしたら怒るわよ”
因みに怒るぐらいでこの男が踏みとどまる訳がなく。最終手段はもうベッドに縛り付けてやろうかしらとカルテに大きな文字で書き残すことになる。

負荷がかかっていないのは、俺だけだ。
…知っているわよ。
面と向かってそう言い放ってきたのではっきりとそう答えてやった。
本人の意識はなく、意思も関係なく。フェニックスゲートにて惨劇が起きた日と同じく。覚醒と顕現は彼の弟が理と形容する存在から起こされた。風のドミナントの暴走により顕現化したガルーダとの戦いが2度目の顕現であり、彼の現実だった。
すでに力尽きていた相手をシドがやめろと叫んでも止まることなくいたぶり続けていたと教えてくれた。確かにここに来たばかりの頃はオットーがシドと共にロストウィングに向かっていた頃にとんだ野良犬みたいな奴が転がり込んできたものだと私も思ったものだ。
だけど、無作為に人の命を奪うような人ではないと、出会った時から感じていた。
それは彼がまだ囚われていた時のこと。顕現化は2度目であったにも関わらず身体を牢屋の近くで調べても石化している箇所がひとつもない。疑問がすぐに浮かび上がった。同時に目を覚まし起きているそして起こしてしまった現実がすぐに受け入れられず、叫び声があがった。剣へと手を伸ばそうとした。シドの話した通りの動きをしたので近くに待機していた石の剣の彼らが即座に押さえつけて。前もって打ち合わせしていた通り牢へと連れていかれた。ぎゅっと両手を組みこの状況を見送るしかなく。戻った医務室でまだ眠っている彼女の額に浮かんでいる汗を丁寧に拭きとる。こちらは大きな声を出したりしないが、苦しそうに息を吐くことがあった。石化の影響以上に心が苦しんでいる。
今このままではあなたたちはお互いに会えない。
そう時間が経たない内にシドがクライヴとトルガルを連れてキングスフォールに向かうと顔を見せてくれた。

あちらさんは。
少しうなされていたみたいだけど、落ち着いたわ。石化以前に心の傷でしょうね…。本当はクライヴの姿を目に出来たら良いのだろうけど。
こっちもまだ言い返すくらいの元気はあるからな。後はあいつ次第だ。
…そうね。

そうして、ジルが目覚めてから。確かにあんたは動き出し始め。今のロザリアとドミナントとベアラーたち、そして自分の現実を知ってからは前に進み始めた。
今までずっと自分だけの世界だった。知ったからにはこの痛み以上に俺は前に進まなければなければならない。シドとの誓いと亡くなった皆の為にも。
その確かな決意を実際に目にし知ってきたからこそ私は取り除く施術した。
腕の怪我の縫い目は丁寧に施してやったが傷が完全に塞がるには2,3日要る。何度それを言ってきたことか。処置が終わると助かった感謝すると早速出ようとする。

ああ、もう!

医務室からすぐに出て行く足音に寄り添うようにもうひとつの毅然とした足音が近寄っていく。
ジルだ。
“また、すぐに出るのね”
“時間は限られている。これくらいならすぐに動かせる。タルヤのおかげだ”
ジルの針子とは違う。誰かを想って美しく紡ぎあげられるのではない。
縫い目は傷をあとは本人次第だと託し。医者であるこの身は常に石化と死と苦しみの現実に向き合わなければならない。完全な回復などフェニックスくらいだろうね、出来るのはと彼にこぼした時に。フェニックスも人を生き返らすことは出来ないとあんたは優しい眼差しで教えてくれたけど。

負荷がない。
クライヴはそう語る。その代わりあんたは私達とこのヴァリスゼアの為に前に進んで背負っているでしょう。
ジルが受け止めると目を覚ましてから間もない頃あんたにそう言ったのを忘れている訳でもないでしょう。
はあ、と息を吐く。ロドリグは心配そうにこちらを向いた。
すぐには変えられない現実があるの。日々それが起きている。
石の剣に志願したベアラーと昨日話したことは覚えているわよね。

決意と覚悟。
それをもっとも深く受け入れた男が私たちのリーダーだ。
次はコールの腕を縫ってから、そのベアラーとも話をまたするわ。本人の意思を見分けて。

クライヴのあの姿を見てどう思っているのかはっきり答えてもらう。そうして考える。


・受け入れる

拠点のクライヴの部屋にて石の剣のことや、これまでのこと、これからのことを話し合っているロズフィールド兄弟。

ジョシュア「兄さんにひとつ確認しておきたいんだけど」
クライヴ「どうかしたのか」
ジョシュア「兄さんはジルのどこに惹かれているのか教えて欲しいんだ。はぐらかしたりしないでね、そうする責任もあるのだから」
クライヴ「…最もな話だな。そうだな―」

傍に居てくれて、受け止めてくれる。
本当は俺に怒っていたり、言いたいことは沢山あるんだろう。
…それでも、俺自身や俺の意思を大切に想ってくれている。そしてそれを何より望んでいてくれるんだ。

ジョシュア(前にも話し合ったけれど、我慢させている自覚はあるんだよね‥‥)「他にもあるよね」
クライヴ「…気高く、毅然としている。隣に立つとそれを深く感じるんだ。ロザリスに来たばかりの時は居場所がないように考えていたと話してくれた、あの日も礼儀正しく真っ直ぐに俺とお前を見つめてくれていたな」
ジョシュア「覚えているよ。寂しい想いをしていたはずなのに、それを表には出そうとはしないでロザリアに来た意味を精一杯受け止めていた。ロザリアにいてもいいんだと受け入れるようになったのは兄さんのお陰だから、ずっと感謝していたんだろうね」
クライヴ「3人で過ごすようになって、すぐにそれが当たり前になっていったな」
ジョシュア「僕は屋敷からそう易々とは出られなかったから、兄さんの稽古のことやロザリアの兵達や民のこと、アンブロシアやトルガルを含めて沢山のことを教えてもらっていた。僕が尋ねることも優しく微笑んで受け止めてくれていたよ」
クライヴ「母様がよく睨みを利かせていたが、ジルは礼儀正しく頭を垂れて上手く対応していたな。
自治領であの人と向き合った時も脅しではなく逃れさせまいとレイピアを抜いて凛と共に立ち向かってくれた。お前を抱き止めていた時も同じだ。気高く俺が行うべきことを見送ってくれていたんだ。そうした内面に、強く惹かれている…」
ジョシュア「受け止めてくれていたんだと、意識を取り戻してすぐに気づいたよ。ルサージュ卿をあのままにはしておけないのは僕も同じだった。彼が民の為に立ち上がったのが分かっていたからね。僕らの戦いを見守ってくれていた。最後までそうする覚悟だった」
クライヴ「ジョシュア、俺は―…」
(深く息を吐いてから)ジョシュア「ジルがそうやって受け入れられるのは、クライヴ兄さんだけだ。僕もそれは受け止めているし、受け入れている。後戻りは出来ないからね。元気になってくれてからはまた凛としてそして柔らかい彼女だ。そのことに感謝しないとね」
クライヴ「ああ、そうだな」
ジョシュア「兄さんが僕とジルが一緒にいることが当たり前だと思っていないのは知っているさ。それはとても嬉しいよ。でも偶には怒るよ、僕だって子どもの頃から我慢してきたこと、沢山あるからね」
クライヴ「是非そうしてくれ」


とん、とん
(クライヴ→ジル)

君の傍に、隣に立つ度に気づく。
いつだって俺が手を取り握りしめると握り返してくれる。
視線を逸らすこともなかった。
じっとまっすぐにそれでいて確かめるように。見抜くよりも受け止めようと。

言いたいこと、話したいことはたくさんあるはずなのに。
望まない力をこちらに傾けて俺を守ろうとしてくれていた。
こうして身を覆うものもなくなりお互いをさらけ出したようで。
それでも見せようとしないで守る為に生きていくと話してくれた。

俺が君にあった力を奪った。そうしなければ本当の君を見つけられない。
そう思って。

そうして君の心に辿り着いた。鉄王国で泣くことを止めてから…ニサでこぼれ落ちた一筋の涙。ジョシュアとやっと出会えた時にこみ上げてきた涙。
それらすべてがなだれ込んできてーロザリスでメティアに祈った時に流れた涙と俺の目の前で俺を想って笑顔とともに流した涙の意味は。

とん、とんと。

お互いに身を寄せ合い聴こえてくる鼓動。
問うことや何かを言葉にすることはない。

今はただ穏やかに、夜明けとトルガルの目覚めを待った―。

からっぽの
(再会する前のクライヴとジル)


ロザリアにいた時は12歳だった。すでに“ここ”でその年を超え13年目となる。月に寄り添うメティアを見上げなくなったのも同じ…家族をまた亡くしたのだと。
会えない。
あの男の命ずるままに剣を振るって、この氷の魔法で、シヴァの力でいったいどれほどの人たちの命を奪ったのだろう。
考えるのもやめたいけれど、それをしてしまったら誰かが殺される。目の前で痛めつけられているというのに。
拘束具を嵌めたまま、また檻から出された。
生きていること自体に、意味はもうない。
大好きだったあの日も、その想いも、もうないの。
…違う。無くしたくはないから心が凍った。からっぽにはしたくないから、そうするしかなかった。
凍らせたまま、シヴァに顕現する。
そうして、終わらせよう。

あの日からあの時の君の年を超え13年目に入る。ザンブレクへと連れて来られたばかりの時に耳へ入ったのはロザリスで捕虜にされた首都の女性たちと亡くなった兵と民達。
耳を塞げず、ただ、どこでも良い。無事でいてくれ。会えなくて良い。戦いに巻き込まれずに静かに誰かと生きてさえいてくれていれば。そう願っていた。
俺は、もう君には会いに行けないのだから。

ニサへの任務が下された。ダルメキアと鉄王国が衝突し合う。タイタンのドミナントとシヴァのドミナントが投入されるだろうと。目標はシヴァのドミナント。
「鉄王国に女のドミナントが居るって聞いていたけど、まさか本当になあ…」
ビアレスが武器の手入れをしながら、凍らされて死ぬのは勘弁願いたいもんだと悪態までは行かずとも置かれている一歩踏み外せば死が待つここでずる賢く生き残った意味を含めてそう零した。武器1つとっても上等とはとても言えない。
どうせこれがある限り命令は逆らえないだろうとベアラーとして飛竜草から入れられたひとりひとりの刻印を忌々しそうにティアマトは見渡し。手入れが終わった部隊の者たちがずかずかと出て行って。
鉛のように重い身体を起こし、逆らえない命令にまた俺も連なる。
あいつをこの手にかける機会はまだ巡って来ないのだろうか。
だが、それでも。これは俺が生きている残された意味なのだから。
からっぽになるより、ずっとその方が楽だ。
どこにいるか分からない君に俺はもう会えない。
覚えてくれていたらなどと都合の良いことは考えない。
俺の様に縛られず、戦いにも関わらないで、どこかで生きてさえいてくれれば。
これを終えたら、俺はからっぽになるだけだ。君には会いに行けないのだから。

((本当はこれで良いなんて思わない。からっぽになるのが怖いだけ))


・筆跡

※拠点にてクライヴがジョシュアとジルを連れて行く前。

最後の戦いに出向く前にクライヴはなるべく他の協力者たちの所へ石の剣を遣わしたりひとりでモブハントへ向かったりしていた。

(ベンヌ湖の地平線をインビンシブルから見つめながら)ジル「‥‥」
(ジルに気づかれないように軽くため息をついて)ジョシュア(待っているだけでは辛いのだろうな…)「ジル」
ジル「どうしたの、ジョシュア」
ジョシュア「手紙というか…。兄さんが出ている間にちょっと気づいたことを書きとめておこうか。戻って来たらすぐに目を通してもらえるように」
ジル「そうね、そうしましょうか」

(せわしなく戻って来てから)クライヴ「ん?この筆跡は…」
さらさらと書いてからすぐにまた出て行く。

クライヴ様なら、とマードック将軍の甥に教えられて彼の私室にノックして入るふたり。
ジル「クライヴ、戻って来たの?」
ジョシュア「‥‥いないみたいだね。すれ違いかな」
ジル「そう、みたいね…」
(デスクに近づいて)ジョシュア「ジル、見てご覧」
ジル「‥…?」
彼の名前と感謝の言葉が送った紙にさらさらと流れるようなそれでいて力強い筆跡と共に綴られている。

ジョシュア「兄さんの筆跡だ。よく覚えている。ふたりで教師に教えられている間にね、分からないところよくこうした走らせ方をした文字でよく見せてもらっていたんだ」
ジル「私は石の剣の皆に報告書に目を通したと私の方から届けた時に。クライヴの力強い信念が籠っているのだと、そう感じていた」

どんな表情(かお)をしていたのか、すぐに思い出せる。

それは小さい頃共に過ごして来た時からであり。
再会してからずっと傍にいた時からである。

そっとジルが綴られた彼の名前に愛おしく指でなぞる。
ジョシュアは優しく彼女のその姿を見送る。

きっと、クライヴも同じなのだと。
自分達の筆跡とその内容から。ふたりがどんな思いで羽ペンを走らせたのか。伝わっているはずだ。

ジョシュア「ジル」
偶には怒っても良いんだよ。僕はそうしたと話してみても。
柔らかく彼女は微笑むだけで。
受け止めるだけでなく、兄がふたりの想いも受け入れながらそれでも決めたことを曲げたり諦めたりしないのをしっかりと認めジョシュアはジルがクライヴのそうした決意そのものを受け入れて愛しているのだと、ありがとうと感謝の言葉を捧げることにした。

ジルが先に部屋を後にしてからジョシュアはさらさらと綴る。

“ジルを最後まで愛するように”

弟から兄へのメッセージとしてではない。盾として己に誓ったひとりのナイト—男としてその誓いを最後まで果たせるようにと、公主らしい滑らかながら権威のある力強い筆の走らせ方で。

・call

彼は大抵、彼女の名を先に呼ぶ。
「ジル」
そうしてから相棒のトルガル、愛馬であるアンブロシア。
続いてガブやオットーやミド、ネクタール。石の剣の彼ら。そして仲間でありチームである拠点の皆とその名を連ねていく。

彼の生き様でもあり、大切なものを守ると決めた誓いそのものである弟とようやく再会出来て。やっと共に居られるようになってからは。
「ジョシュア、ジル」
そう呼ぶのが常となった。
3人とも歩みを止めることはなく、相棒の狼を引き連れながらベアラーたちの真実を探ろうと石の剣の依頼からある孤児院へ訪れていた。
既に破壊されたマザークリスタルの麓にそびえていたストーンヒル城。
あそこで弟と共に人ならざる者だけが招かれるあの場所へ引きずり込まれた。
退けはしたものの、そこで知った真実は人の業と、このヴァリスゼアを除けば死へ向かっている世界の有り様。
戻って来てから彼女とお互いをしっかりと抱きしめ確かめ合った。

オーディンという主を失った城を眺めながら、もはや黄昏行くだけの王国に対し感傷を抱き。先に足を進めていた弟と彼女に声を掛けた。
「ジル、ジョシュア」
ふたりは変わらずに顔を向け、この墓を調べておこうと彼の向かう方向に足を向ける。ふと弟が止まった。
「僕は先に孤児院の中を調べるよ」
「ひとりでは危険だ。トルガル、頼む」
トルガル、とジョシュアは招き。ジルへそっとアイコンタクトをした。
ジョシュアの意図に気づいた彼女は頷き、そうして彼の元へ。
トルガルはジョシュアと共に中へ向かう。

墓の前でクライヴとジルは静かに彼らの死を悼む。
ベアラーとして暗殺部隊で酷使され、鉄王国にて魔法兵として囚われていた長い年月の間は出来なかったこと。
ふたりで手を取り合いながら、最後まで抗いそしていつかここに報告出来るようになったらまた来ようと決意を固める。

「さっきね…」
「どうした」
「あなたは久しぶりに、私の名前を先に呼んだの」
「そう、か」
「ストーンヒルでのこと、思い出していたのかなって」

—会いたかったわ、クライヴ。
—俺も会いたかった。

別れは再会の喜びをもたらす。
会えなかった長い長い時。
再会してからずっとお互いを、時には表に出さなくても傷つくこともあったけれど。
無意識に、心の中で。時にはその名を声に出して。
あなたそのものを。君がここにいるのだと。

そうして手探りで必死に。確かめ合ってきた。
心の中を見せられなかった。凍っていたから。
それを溶かし、壊したのは他ならぬ彼なのだ。

「…ああ。あそこに飛ばされている間も。ジョシュアと必ず戻ろうと考えていた。
会いたいと」

ジル。そう呼ぶとことんと彼女が寄り掛かってくれて。
その姿だけなら彼女が甘えているように見えて、実のところ甘えているのは己自身だとクライヴは自覚している。
優しくその頭を撫で、感謝を捧げる。

傍にいてくれて。補い合って、そして築き上げたもの。
心から愛するようになったその存在そのものを。
愛おしさを込めてその名を呼ぶのだ。

“ジル、俺は君に会いたかった。生きてくれていて、俺の傍にいてくれて。ありがとう。”


※鉄拳8のDLCのクライヴのセリフ。名を呼ぶ順でジルが先でうっかりときめいて書きました(笑)

・届ける(鉄拳の世界に行ったクライヴ)

生きているか分からなかった時。手を掛けられ殺されたと己の無力さを嘆いていた時。
ただ、仇だけは取ってやる。それだけで這いずり回るように生き延びていた。
弟と彼女の名を呼ぶことはしなかった。焚火から火の粉がはぜ。炎を見つめる度に思い起こす日があの日の惨劇だった。バラバラになっていく自分―いや、囚われていただけだ。

(どこだ…ここは)
ここがヴァリスゼアではないという思考は働く。
見た事がない建物と男たち、見知らぬ存在。遺物のように青白い光を放つものもいる。
(ジル、ジョシュア…)
離れ離れになったのだろう。ならば行うべきことはただ一つ。
—生き残って必ず帰るのだ。
再会してから共に行動し。誓いを弟とそれぞれに立てた。
ロザリアの騎士たちが行う剣を突き立て己の生き様と共に誓いを再び見知らぬ場所でも立てる。炎の民―。
(この身をもって)
(不死鳥の盾とならん)

「兄さん…」
まだ離れ離れだったダルメキアにて。理に意識を飲まれそうな兄に必死で呼びかけ。
そしてフェニックスの尾を通して—…守り抜いた。
今も同じ状況なのだろうか。
隣でジルが静かにメティアに祈りを捧げている。涙を流しそうになりながら耐えている。
弟は彼女その横顔を優しく見つめ。そして凛々しく月を見上げた。かつてヨーテに語った通りいまのヴァリスゼアは混沌とした世界でありながら、見失うことはない。
(あの時みたいに声は届けられない)(祈りは届かないのかもしれない)
別の次元、そして別の世界にいるのだろう。それでも。
(あなたに届いている)
(あなたから届く)
その想いと。誓いそのものが。

・ロマンス
※ロズ兄弟+拠点メンバーにて

マザークリスタルドレイクヘッド破壊から3年後。
ベンヌ湖で見つけた空の文明時代の飛空艇であったであろう乗り物―インビンシブルと名付け。中をジョワロフの意思を受け継いだバードルフや彼の弟子たち。ミドのろ過装置を中心に、ロストウィングであちこち改造もしているカンタンにアドヴァイスを受けながら大部分を新たな拠点として改造してきた。次に取り掛かっているのは石の剣の彼らの訓練だ。
稽古場にても木剣の音が響き合う。

昼が過ぎ少しの休憩の間。
傍に寄り添いながら食事を取っているクライヴとジルをそっと眺めながらオットーがふたりの仲を見守っていた。
オットー(ロザリアではきょうだいみたいに育ってきた仲だとしか言わなかったが…)
タルヤ「クライヴはそうかもね。ジルは正直分からない」
オットー「そうなのか?俺には仲間以上のものがあるように見えるが」
タルヤ「私も私の医務室なんだけどとジルが目を覚ましてからすぐに抱きあうもんだから釘を刺したわ。フェニックス・ゲートから帰ってきてからジルはどこか抑え込んでいるように見える。まあ、私たちがとやかく言う事じゃない」
オットー「そうだが…偶にはふたりっきりにもさせてやらんと」
タルヤ「あら、気が利くのね。それを言葉だけじゃなく行動に移してよね」

後の2年後にマザークリスタル破壊の誓いを立てるクライヴとジル。
その時に火急の用で訪ね、ふたりっきりの邪魔をしたみたいですまないと謝るオットーだったが。
その時のジルはまだ因縁を断っておらず冷めており。
鉄王国から戻ってからようやくとなる。
尚、両想いだとはっきり自覚したクライヴとジルの良い雰囲気を邪魔することになったのはガブだが。
この雰囲気をさっぱり把握できていないガブの様子に軽くため息をついた後、出て行くクライヴの後に付いていこうとする彼の後ろ頭を軽くタルヤは小突いてやった。
ガブ「な、なんだよ」
タルヤ「それが分かるようになったら、後でクライヴに謝りなさい」
ガブ「はあ?」


ウォールードから帰還しミドがジョシュアって王子様みたいだねとジルやヴィヴィアン、石の剣のドリスの前でのほほんと話して来た。
ジルはミドののんびりした話し方に特段ジョシュアに対して恋をしている訳ではないと判断し。
ヴィヴィアンはクライヴと彼は貴族の出だとは聞いたが…とふたりの仕草や話し方を思い返しながら、それぞれの置かれていた立場は違っていたのだろうなと頭の中で整理をし。
ドリスは礼儀正しく“なぜそのように思われたのですか”と尋ねた。
「ん?ああ、エンタープライズからウォールードへ送り出す時に手の甲にジョシュアが口づけしてくれたんだ」
あっけらかんとした口調。特段何かを意識したという訳でなく素直にそう思ったから口にしただけなのだろう。
ヴィヴィアンはふむと腕を組み。ドリスは船上においてフェニックスの姿でエンタープライズを守ろうとしたと伺っています。あなたとあなたの造り出した船に敬意を払っておられるのでしょうとふわりと微笑む。
「ね。ジルはクライヴかジョシュアに小さい頃そんな風に口づけされてた?」
素直さから今度は好奇心へと。ミドがにこにこしながらジルに尋ねる。
「えっと…」
つい最近されたばかりである。
「あ~、でもクライヴってあんまそういうのしなさそうだよね」
「まあ、暴君になりそうな素質があるからな…」
「誓いの時は剣をロザリア式に突き立てるでしょうね」
「‥‥」
ジルがどう答えようか考えている内に。
自分でしっかりと考えられる彼女達はあっという間に結論を下し。
さて自分たちの役目に戻るかとさっと動き出した。
ジルは彼のキスが落とされた手の甲をそっと見つめ。
ふたりだけの誓いを秘密に出来て。
すっと優しく目を細めそして愛おしい、彼が自分だけに向けた口づけと彼女だけに向けているその想いを自らに秘めたままでいられたので嬉しいようなくすぐったい気持ちでほっと息を吐いた。

因みにジョシュアがそうした挨拶をすると何気なく通りかかった噂好きな彼女達からあっという間に拠点の女性達に広がり。
ジョシュアが寝泊まりしている部屋にさりげなくそれでいて沸き立つように顔を出す女性たちの姿も見られるようになり。
ヨーテがジョシュア様のお身体に差し支えないようにお願い致しますと毅然とした態度できっぱりと跳ねのけ。
数日するとそれも大人しくなっていった。