クライヴとジル多めです。
両想いだったり、両想い前提の片思いなど。


クライヴとジル多めです。両想いや両想い前提の片思いなど。

身なりはきちんと(クライヴ←ジル)


先に必要な物資を買っておくかとカローンに話かけて、合わせて流通のことも尋ねてみた。彼女が必要な医薬品も取り寄せているのだと、タルヤの助手である男性の独り言から知った。
医者であるタルヤや助手の男はここ最近運び込まれてきたベアラー達の様子を思い出しただけでも確かにおいそれと医務室から離れるわけにはいかないだろう。
“これからはあんたにも頼むからね”
出会って間もない頃はすぐにここを去るつもりだったのが、今や一員となったクライヴに発破をかけるようにカローンは力強く言った。
ここにいる皆のことをシドとの“大仕事”を成功させて戻ってきたら、名前や出身のことも尋ねてみようと思う。シドに連れて来られたばかりの時はどこか他人事のように思っていた彼らのことを改めて考えてみると、すまない気持ちとここが良い所で最初から好感を抱いていたのだと気づく。
ふと振り返ると、トルガルは蝋燭の明かりをじっと眺めていて。火打石で灯していると聞いた。魔法を使わなくても生きていける証のひとつだ。
ロザリアでも火傷するからな、とあまり側には寄らないようにジョシュアやジルと3人で言い付けていた時のことを思い出した。トルガルも同じだろうか。懐かしさに笑みが浮かび、他の所へ視線を向けるともう準備を済ませたであろうジルが靴下を上げ直してしっかりと身なりを整えていた。
皇国領となって荒れていることは覚悟の上、ふたりでロザリアに戻ろうと決めた時に用意されたジルの今の衣装は青と白を基調とした慎ましくても上品な装いだ。
調達されてきた中から頂いたの。大切にしないといけないねとちょっとほつれが出来た時や汚れがある時にマーサの宿にてきちんと丁寧に繕って水で洗い流ししていた彼女の様子から皆への感謝の想いがよく分かる。
(ジルは昔から裁縫が得意だったな…)
顔を上げた彼女と目が合った。ちょっと驚いたらしく身なりを確認する仕草をしはじめた。
「…どうかしたのか?」
近づいてそう尋ねると。
「え、変なところがないかなって…」
「どこもおかしい所はないさ」
「クライヴ、じっと見ていたじゃない…」
ああ、そういうことか。
「いや、その装いを大切にしていてジルは偉いなと思ったんだ」
昔から裁縫も得意で好きだった彼女。この隠れ家で洗濯ものを担当している女性もいる。
戻って来たら彼女と話し合う楽しみがあっても良いだろう。ずっと拘束されていて身なりや生地のことも話す機会などなかったのだから。
それは自身も同じだ。イーストプールの惨劇はあの人のことを許せないと思うのと同時に受け取った父上のものを大事にしたい、オットーや子供達が褒めてくれたことも嬉しかったのだ。
「よく似合っているよ」
「…ありがとう。クライヴ」
「最初に見た時からそう思っていた。綺麗になったなって」
―お兄ちゃんとお姉ちゃん、なかよしだね。
―こんどはシドともおしごとだって。
小さい子たちがひそひそと楽しそうにふたりのやりとりを眺めている。
「…クライヴは…そう…あなたは昔からエルウィン様に似ていたわね。
今は…ああ、あなたなんだって…そう感じている」
淡々とした口調ながら確かめるように語る彼女の様子からそのことに安心しているのだと分かった。
「そうか、良かった。君にそう言ってもらえるのは嬉しいよ」
「私で良ければ、だけど…」
「ジルだからだ」
きっぱりとした口調にジルがかすかに微笑んだ。
良く見てくれているし、これからも頼むよと伝えてから今度はブラックソーンの工房へ剣の調子を見てもらおうと足を向けた彼のその後ろ姿を見届けてから。


きゅっ、と指を絡ませて彼女が噛みしめるかのように瞳を閉じている。嬉しいのだろう。
髪型は変じゃないかしらと次はそちらを確認し出す。


やれやれとそんなふたりのやりとりを遠巻きに眺めていたカローンが今度リボンでも新しいのを取り入れてやるとするかねぇ、あの男は気づくだろうし…とキセルから煙を吹かせていた。



・対

俯く彼を見て雷と知恵を司る召喚獣ラムウを宿す男が言った。
ベアラーは言葉を話すことも視線を合わせることも許されない、と。
シドの隠れ家に来てから誰かと会話する、ということをぎこちないながらも行なってきた。それでもこの13年間人ではなくベアラーとして扱われて来たことを思い返すと未だ他者に拒まれる感覚は残っている。向き合うのは任務の相手で生き残るには命を奪う、それだけの日々だったのだ。
炎のドミナントを追うという決意に動かされ―本当は目の前のこれだけはと流されていたのかも知れない―ガブがまっすぐに俺も家族を奪われたからな、気持ちは分かるぜと否定もせずただ為すべきことを今は考えて良いと促がしてくれたときは同意してくれたというよりも自分が誰かと繋がりを持てたというもう得ることはないのだろうと考えていた感覚が再び蘇ったのだ。

そしてシドに任せて目を覚ます前に去ろうとしていた君が目覚めて。
俺と同じくトルガルを優しく撫でている姿を見てほっとしたんだ。
元気になったな、と拠点の彼らが次々と言葉にし。カローンには死んだ目をしていたのにようやく生気が戻ったもんだと一聴すると皮肉に思える彼女らしいその調子に気遣ってくれていたのだと気づく。そうした繋がりを本来はずっとずっと持ちたかったのかもしれない。
悲しみの入り江の教会にて現実を。フェニックスゲートにて真実を知りイーストプールにて今のヴァリスゼアの現状を思い知らされ。
帰路につく道中シヴァのドミナントとして氷の魔法を凛として指先から掌に伝えて唱えて放つ彼女の姿を見て。己の左手と左腕を流れるフェニックスの祝福とは異なる炎の力を自らの身体に流し込みながら自身がイフリートのドミナントだとシドの前で受け入れたことを伝えた。俺と彼女の決意だと手を取り合って。
ジルはシドからドミナントとベアラーの状況についてオリフレムにて知らされた日から後は―クライヴとシドが誓い合った証を見つめる度にそのことを思い出していた。ドミナントが道具として扱われる理由。この身は兵器でしかなかった。人ではなく獣のようにブリザドと呼ばれる氷魔法―氷の雨を降らせ相手の肉体を切り裂いていたのだ。
氷のように固い決意でそう遠くない日にあの国へ戻るとそう決めていた。未だクライヴにはそのことを告げていない。
動き出せていない日々が長かったのと小さい頃離れた北部を除けばロザリアだけが少女の時代は彼女にとって世界だった。戦いはこれからもある、戦いに出ないからこそ知らなかった現実をあの国で自らの手を汚しながら知ることとなった。
捕らえられていた鉄王国では戦いの日々でどこで何が起きているのか考えることも出来ず、目にすることもなかった。
彼と戻ってから実際にふたりで目にしてきた。自分の想いひとつではどうにもならない、それでも自分のただひとつメティアに祈った願いが叶ったのだと相反するものを彼女は抱えていた。
彼の傍にいる。いられる、のではなくいるのだ。心が動いていると感じる日々を重ねながら。

潜伏するようになってからインビンシブルをクライヴが見つけ出して。保護出来たベアラーたちも増えていき石の剣の部隊も揃ってきたもうすぐ5年はあの日から経とうとしていた頃。
ザンブレク皇国内のキングスフォール、霧の深い河付近をふたりとトルガルで馬(チョコボ)を駆け巡らせていた。近くの集落でベアラーたちの取引が行われていると石の剣のオーガストから報告が入ったのだ。
その時に火のドミナントは俺なのにと落ち込んでいるとガブを助け出しシドの真実を突き止めるんだと言い聞かせるように語ってくれたのが切掛けで立ち上がり始め。
そうして目覚めて間もない君に会いに行ってこいと拠点の彼らが背中を押してくれたのだ。
今は自分から誰かに対しても前に進み出るように―時には怪我も構わずすぐ無茶をするとタルヤに怒られようと―そう決めて動いている。
取引場所はかつてガブがザンブレク皇国兵に追い詰められていた場所に近い。2頭を近くの森へ潜ませ。トルガルはガブの危機を見つけた高い所からすぐに合図を送ってもらう様に頼む。
ジルとふたりで付近の岩陰に隠れた。左手に小さな炎を灯して調子を見る。怪我の影響はない。
隣に立つジルは右手に氷の魔法を宿す。望んで戦ってきた訳ではない彼女だが顕現出来ることも相まってコントロールに優れている。
視線を彼女へと向ける。静かに頷いてくれた。前で様子を窺う彼の右手を彼女その手でそっと取る。この5年間幾度となく視線を絡め何気なく傍に寄り沿うとそうしてきた。
お互いの決意と。未だ顕現がままならない彼を守り支えると。
じっとジルを射抜くように見つめる。彼女はクライヴのその青い瞳を真剣に見つめ返す。

君が俺に話してくれていないことが、ある。
私はまだあなたに話せない、の。

それでも―。
この炎の想いをいつか君に伝えたい。そばにいてくれる感謝だけでなく。俺自身からの。
この氷の意思は誰かを凍てつかせるものではない。あなたとの誓いを。
ふたりで決めたことを最後まで貫く為にある。

…そして、いつか溶かして。ほんとうの私を見つけて欲しい。

絡めていたほんのひととき時からふたりは動き。今目の前の現実へ意識を向ける。
マザークリスタル破壊へと再び動き出すその為に。


・歩み寄る(ジル→クライヴ)


ここの所はクライヴがひとりで拠点を出ることが多くなった。

ほとんどいないじゃないか―ミドの大工房にてエンタープライズを皆で完成させると意気込んでいたその時にガブもダリミルの近くであいつに話したぜと後に教えてくれた。
それと拠点では日々皆が忙しく動いているのだから同じ状況なのだとそれは分かっている。留まることが多くなったのはジルだ。少なくとも彼女自身はそう感じている。
クライヴが今はタルヤと共にノースリーチへ買い物に出た。ささやかな時間ではあるがタルヤにとっては良い気分転換になっているのでしょうねと思う。医者である彼女が拠点から出る機会が殆どないからだ。ハルポクラテスにどちらと行くかねと尋ねられてクライヴもそう考えて彼女を連れ出したのだろう。
ちょっとした買い物はふたりで―許しが出ればジョシュアと一緒にトルガルを連れながら出かけたことを思い出す。子狼だったトルガルはすぐに飛び出してしまっていたのだ。
ジル自身はノースリーチへマダムことイサベラとベアラー保護活動含めザンブレク皇国内の状況を確認し合う機会を含めて幾度も足を運んでいた。それは主に戦いの為に、ではある。
(…行きたかったと話せば良かったのかしら)
そう伝えたらクライヴは構わないと言ってくれただろうしタルヤも変わってくれただろう。
…結局我慢をしたのだけど。
頼まれていた用事も終わりインビンシブル内にあてがわれた自分の部屋で少し休もうかと腕を伸ばしているとノック音が響いた。ジル、いいかい?と拠点の皆のひとりひとりの声は耳に慣れたものでこの声がオルタンスだと分かった。
ベアラーの姉妹たちの為に仕入れた布。クライヴに好きな色について聞いたんだと彼女は教えてくれて。せっかくだから縫っておやりなさいなと余ったのを寄越してくれた。
ジルが小さい頃から針子が好きで得意だったのだとクライヴが楽しそうに語っていたよとそう付け加えてくれて。

―ジルは手先がとても器用だな。
稽古を終えて先に屋敷へ戻り縫いものに取り組んでいた彼女に対して彼は温かく微笑んでそう言ってくれて。
嬉しさとほんのりとした温かさ。そしてどこか心が躍るような感覚があったとそう思い出してきた。
どこか心がちくりとしている今の自分よりもっと素直だった、とは思う。
あの時は戦いに向かう彼とは一緒には行けないのだとそう受け止めていた。身体が弱いジョシュアは護身として剣を携え可能な限りの訓練は行なっていたのに対し。
縫ってあるものを見せると彼はすごいなと素直に褒めてくれて。
―俺に出来ないことをジルはよくやってくれている。
ありがとうと言葉を紡いでくれた。彼のそうした所は本当にずっと変わっていない。
…知っているからこそ、また傍に居て感じられているからこそもう失いたくないと辛くなるのかもしれない。

針と糸を取り出して布へと手を伸ばしすっと糸を通しはじめた。
想いひとつひとつが溢れて来そうになる。
するとインビンシブル全体の気配が騒がしく活気が出て来た。
拠点のリーダーが帰ってくるとこの雰囲気に包まれるのだ。
急いで針と糸を仕舞い布は丁寧に畳んでジルも出て行った。

先にタルヤが昇降機から上がって来てこちらが尋ねる前に今バードルフ達と傷んだ箇所がないか確認しているわよと教えてくれた。
私は良い気分転換になったからありがたかったわと。
ああそれとタルヤはさらに続ける。無茶ばかり続ける彼に対して忠告もしておいたわ。まあ言って聞くような人じゃないって分かっているけど。だから医務室に飛び出したあの日のカルテのことこちらへ来る度に目に入るように置いているのだから。腰に両手をあててまったくと彼女は軽く息を吐いて。

とにかく、頼むわよジル。
言葉にはしないその瞳がそう語っていた。
「それは他でもないあなたしか出来ないのだから」

―あなたを支える。
そう決めたのはあの日から。
そして彼と再会出来てから。
今この時も変わっていないはずだ。

ジルは微笑み頷いた。昇降機から彼も上がってくる。
まず出来ることは歩み寄ることだ。最初にそれをしてくれたのは他ならぬ彼だから。
そこからまた始まるとクライヴの傍に歩み寄っていく。


・夢を見る(ジル)


ジョシュアを守る、それが俺の使命だった。生き残ってひとりの間は復讐を遂げることばかり…それだけしか残されていないとそう囚われていたんだ。現実と真実を知ってからは思考と歩みを。止まるな、進めとそう生きて行こうと決めた。

兄さんが宿すべきだったとそう思った。それが叶わないならお互いに支えながらこの国の人たちが確かに好きだったから。守ろうと決めた。
目覚めてから真実を知ってからはー守ってくれたように今度はそうあなたが僕に誓ってくれたように僕の方から動こうとそうして歩み出した。

産まれたときから私の価値について周囲の人々は常に話し合っていて。何かを言う事も誰かに伝えることも出来なかった。
それはロザリアに来てからでも同じで。和平として差し出されたのだからせめて役には立たないと…そう分かっていても何をすべきなのか見えて来ない。本を開いてせめて誰か…何かとお役に立てますようにと窓際で静かにしているとあの日にクライヴが声を掛けてくれて。手を引いてどこへ行くのかあなたは何も言わずあの丘へと連れて行ってくれた。その日からあなたとジョシュアを支えようと決めたの。
離れた年月は思い出したくもない日々だった。私自身に価値はない。私は存在すらしていない。穢れた獣。そう扱われて来たから。
あなたの姿を再び目にして。そして前に進もうとするあなたを…もうあの頃の私はいないけれど。それでも支えよう、そう思った。心のどこかで違和感を…頭で考えて心から出ていないものを口にしながら。
再会してからは幾度となく傍で寄り添った。その度に鼓動を感じる。心が動いている。ああ、でもそれだけではだめなの。ずっと一緒に居るにはそれだけではこの世界では叶わない。あなたは人を見つめて見出す。私は人でいたい。

ジルは小さい時何になりたかったの?とテトとクロが本を図書館へ返すお手伝いの帰りにお茶を飲んでひと息ついているジルにそう尋ねてくれた。
「ふたりはなりたいものがあるの?」
「ハルポクラテスがよくお話ししてくれる、しんわのばしょを見に行きたい。たびするひとっていうのかな、それ」
「おとうさんとおかあさんのこきょうはどんなところが見に行きたい。それで本を書いたり絵を描いたりするの」
「いいわね…。そうなれるように私も願っているわ」
「うん!」
「ありがとう、ジル」

外の世界についてはハルポクラテスだけでなくシドからも少し聞いていた。だからこそ彼らが真剣に語るヴァリスゼアに今起きている問題はより現実味が増し事態の深刻さに関してこの身に染みる。
子どもの頃はロザリアからそう気軽に出ることもないのだから知ることはないだろうとそう思ったりもしていた。
外大陸に行くことも無いのだと。
ミドがこの大陸の人々が救われるためには逃れなければならないとシドがそう考えていたことに気づいていた為だろう、クライヴにそう話してくれた。ジョシュアはモースの書物を通して外大陸の人物だったからこそより俯瞰しながらこの大陸の真実を見極めようとしていたのだろうとそう静かに語っていた。
クライヴはブラックソーンやオーガスト達を通してこの大陸にはない技法の武器に関心を示していた。
彼が戦いの渦中にあるのは何もヴァリスゼア大陸全体が抱えている認識だけでない。彼が運命の支配下に産み落とされたからだ。
それでも、最後まで人であると、ジョシュアとジルを通して。ふたりを大切に抱きしめながら彼は語ってくれた。
外大陸はその殆どが黒の一帯に沈んでいると真実も知った。
けれど私たちはその中でも人が人らしく生きられる場所を創り出していた。ヨーテがある日語ってくれた。
ジョシュア様と黒の一帯を共に巡っている間はどこか諦めていて冷めた突き放した見方を私はしていました、インビンシブルに一緒に来て欲しいと言われた時もお世話が出来ればそれが私の役目となるとそう思っていました。
あの方が語られた通り、ここに来て…その意味を悟ったのです。

拠点へ戻って来たクライヴの右手をジルは両手で包み込む。
ハルポクラテスがいつか彼が剣ではなく筆を取る日が来て欲しいと彼に語ったこと。ジョシュアがモースの様に才があると見抜きそれでいて彼へ託そうとしているもの。
ふたりで共に目にして来たことを心の中からあなたそのものから来るものを。外大陸でも同じ様に目にしてそして綴りたい。私の想いをあなたに伝えたい。あなたが注いでくれてきたものに愛を込めて。

―ジルは何になりたかったの?

ふたりを支えるのが私の役割だとそう思っていた。

今はなりたいものがはっきりとしている。あなたともうひとつの約束をして。ふたりで外大陸でもちゃんと人が生きていく姿をこの目にして。

そしてあなたと人として共に生きているのだとそう心から感じていたい。