望郷組多め。ヨーテも。
繋いだ手
クライヴ→ジルからの。
微かなジル→クライヴ。
すでに辺りは暗くなっていた。ベアラー保護活動をシドから引き継いで2年。
新たな拠点場所を見出しかつてのシドが作り上げていた隠れ家と同じく中を整えるのをひっきりなしに生き残った皆と新たに加わったベアラーたちと共に協力し合いながら続けている。
この度ザンブレク皇国領内にて連れ出せた3人のベアラーたちは幸いにして火種となるような戦いを避け、カローンが差し出した貴族好みの装飾品と実用性はないが豪華な飾り付け用の短剣を差し出すと相手は取引に応じた。
ベアラーならいつでも買えるしな、と心の奥が痛くなるひと言を残して。
“ああ、もっと役に立つ奴らを知っているなら紹介してくれよ”
…これがこのヴァリスゼアの現実なのだ。
保護した3人は産まれも育ちも違うと小さな声で教えてくれた。
3人とも怯えていた。真ん中の一番年下であろう短い茶髪の少女の前にかがみ手を差し伸べてそっと“人らしい暮らしをしている所に行こう”と囁いてみた。
おずおずと俺の手を取り。そうして繋がりを持ち始めた。
彼らを先にドリスとコール、そして少し増えた石の剣の彼らに先に案内を頼み、また後でなと声を掛ける。
3人とも戸惑いながら振り返って、真ん中の子が少し微笑んでくれた。
石の剣のメンバーに守られながら歩み出した。歩き方がしっかりはしていたので大きな重症がないことに安堵した。着いたらタルヤが診てくれるはずだ。
日が完全に沈んで月が姿を見せる。今日は三日月だ。メティアの位置は変わらない。
シンとした静けさと共に空気が冷えて来た。芯から身体が冷える季節が巡って来たのだ。
イサベラやカンタンに報告をしようとジルに伝え。ふたりで歩み出す。
皇都オリフレムから神皇を含め貴族たちと多くの民が自治領へと住まいを移した今ドラゴニエール平原含めかつては要塞を含め要でもあったノースリーチは寂しくはなっているが好都合だ。
ダルメキアは未だあの男―フーゴの支配下にある。今度はそちらへ旅立つ訳なのだが気をさらに引き締め向かうことになるだろう。
足元が険しくなっている監視塔の麓。そっとジルへ手を差し伸べた。彼女も彼の手を取る。
“私も受け止めるから”
再会してから君はずっとその言葉の通り。お互いに離れることはなく歩んできたはずだ。俺もまた前に進むのだと決めたその通りに。
どれほど厳しい現実が押し寄せようと、シドの前にてふたりで誓ったのと同じ様に。
日が落ちると急激に冷え込んでいく。しっかりと彼女の手を握った。さきほどの少女はおずおずと握り返していた。
ジルはしっかりと握り返してくれている。氷の魔法を使っているとはとても思えないほど彼女の熱が籠っているというより本当は優しい女性(ひと)なのだと穏やかに伝わる温かさがここにある。
それと共に、まだ見せようとしない何かも感じる。
それを問い明かそうとするのは今では、ない。
だから、俺からも炎をそっと君に送りそして灯す。
奇跡と呼ばれる魔法ではない。フェニックスの力でもましてやイフリートのものでもない。
“ここにいる”
必ず君を見つけ出すと。
しっかりと繋いだ手から彼の想いは伝わってくる。
氷の魔法のように冷え切ってしまわないようにと彼女だけに向けられた炎のような揺らめきそして燃え立ち奮い立たせる想いそのものが。
あの日と同じなのだろうか。あなたが私を見つけ出してくれた時と。
(でも、それだけではだめ…)
この世界の現実は、それだけでは駄目なのだ。
あの国とあの男との因縁を断ち切らなければ。
(あなたと、ずっと)
あなたの傍にいられた時が確かに私は人だった。
だからこそ、願うのだ。
ジルはそっと月を見上げた。冷え切った静かな空気の中。震えそうな心が隣に寄り添い赤く輝くメティアへ祈り叶った願いと繋いだ手から来る温かさ。
そのふたつから凍えることなくちょっとだけ早まる鼓動、そっとした安堵から来る白い息と共に彼の手をしっかりと握り返していた。
・雪
望郷組
※少年期
はらはらとどんよりした曇天から白い雪が落ちて来た。
「昨日の夜から冷えていたよね」
手先が冷えて来たのだろう、5つ年下の弟がはあと小さな掌へ息を吹きかけた。
「ジョシュア、お前の気持ちは嬉しいよ。だが身体に障る。今日はもう屋敷に」
アナベラが取り巻きの貴族たちとザンブレク皇国から来た幾人かの貴族との交流会を設けている今なら。ジョシュアはきちんと挨拶を済ませた後、ロズフィールド家に課せられた課題の為にと抜け出したのだ。
母は良い顔をしなかったが、父が公子としての務めは十分に果たしたと去らせてくれたのだ。
やっと訪れた少しだとしても自由に過ごせる時。兄の稽古を見届けたいと付いていこうとする弟の体調を気遣い止めようとすると。
「そう思ってね。さらに上着を持って来たわ」
細やかな気遣いが出来る幼なじみの少女が颯爽と姿を現した。
「…だね。さあ急ごう兄さん。感づかれたら母様に僕以上に兄さんに責任が問われるよ」
日課でもある稽古をこなしている間、ふたりも見えないところでしっかりとそれぞれの役割を果たしてくれているのだと嬉しくもありくすぐったくもあった。足元ではトルガルがどんよりした空と雪をじっと見つめていた。
昼下がり。空から降る雪は粉雪ほどだったのが重さと密度が増して来た。
「今日は早めに切り上げた方が良さそうですね」
軽めの休憩と食事を取り。グローブ越しに手の平に落ちてきた雪をそっと眺める。あっという間に溶けていった。
ふたりもその様子を両隣で見届けていた。
「ロザリアでこんなに大きな雪が降るのは珍しいね」
「私が来る前はそうだったのね」
ジョシュアがうん、と頷き。
「北部はすごそうだね」
「…小さかったから、あまり覚えていないわ」
誰も彼もが白銀公の娘をどう役立てようかとそればかり話し合っていて。
そっと大広間を抜けだして自分の部屋に戻っても誰も気にしていなかった。
窓越しに見える大粒の雪は地面を真っ白な絨毯にして。
このままここを進んで消えてしまっても。雪が足跡さえ覆い隠してくれて気づかれないかな。そう思っていた。
ここに来てからそれはなくなった。
ここで、ふたりの傍で、ずっと。それが私の産まれてきた意味。
あなたと出会う為に。
「積もるのかな」
凍えないように持ってきたもらった上着にくるまりながらジョシュアがぽつりとそう零した。
「それほどではないだろうな。さて、稽古の再開だ」
「うん!」
「気をつけて、クライヴ」
ふたりが凍えないで済むように炎を灯らせるかのように彼が前に出た。
トルガルもキャン、と元気に吠えていた。
最後に雪を見たのはあの日だった。
召喚獣の力を失い。そして氷の魔法だけとなり人に戻りつつある今では鮮明に思い出せる。
あのまま降りしきる雪の世界へ消えなくて良かったと。
心が凍ったままで生きていくことはもうないのだと。
可愛い
(クライヴ→ジル)
ロザリスに来られたばかりの頃から可愛らしい方だとそう思っておりました。
ここ最近は成長されるにつれて姫様は綺麗になられておられますねと侍女たちがロザリス城内のそれぞれ割り当てられた務めを果たしながらそう楽しそうに囁き合っている。その話題をアナベラが通りかかるものならすぐに引っ込めるだろうがクライヴの前では違う。
ふたりでトルガルも連れて偶に—今日はジョシュアを不死鳥の庭園へ来れず残念だったねと庭師たちへ感謝も込めて挨拶に回ると—ほら、クライヴ様と姫様が…などと和気あいあいとした声が上がるのだ。
ジルとトルガルにこれから稽古に出ると軽く手を上げこの場を去って行こうとするとひとりの侍女が後で姫様に頼んで軽食をお持ち致しますと俺に近づいて来た。
「ああ、助かる」
「ちょっとだけ教えてください。クライヴ様に姫様はどう見えておられるのですか?」
「どうって…」
これからは彼女もロザリアの一員だからな—。
父上のその言葉を思い出した。
「ジルなら…妹であり、ロザリアの一員だ」
「もうっ!他にもあるでしょう」
何故ここまで声を荒げるような事態になるのだろう。
「妹みたいに可愛いとそう思っているさ」
ジョシュアが誓いと共に必ず守るべき弟であるとするなら。
ジルの傍に—、いや…ジルが傍にいてくれると安心する。
そのつもりで言ったのだが話しかけて来た侍女は不服そうだ。
自覚がないのでしょうかね…少し呆れ気味な彼女のその様子に、
「大切なんだ。ここに居てくれるのが当たり前だなんて思っていない。
それは君もここで暮らしているロザリアの民たちも同じだ」
そう返しておく。
クライヴ様らしいですねと若干の不満は残っている様子だったが微笑んでくれた。
再会してから、鉄王国で溶岩の流れを止める為にシヴァの力を半顕現姿で行使している君の姿を見た時に浮かんだ感情は—あまりにも美しく“綺麗”だった。
強烈に何かに惹かれるとはこうしたものなのだろうかと身体の芯から熱くなる。
だけどそれを君へは注がない。
この力が人でありたい君を運命のように縛り付けそしてずっと苦しめていたのだと知ったのだから。
俺を守ろうと氷のように固く時には鋭く研がれたその意思の源である君自身に目を向けなければ。君の心そのものへ。
過去もこれからの君を受け入れる。
そして、不死鳥の盾として誓った時から灯された俺自身の炎を君へと注ぐ。
そうして、溶けていったものからほんとうの君を見つけ出して。
力強くこの腕に抱きしめて。お互い満たされていく。
・聴かせて(ジル→クライヴ)
目を覚まして再会出来てから直ぐに、あなたのこれまでを知って。
そして受け止めると決めた。だからそう伝えたの。
それだけでは私の心は動かないって頭では分かってはいたのに。
タイタンとシヴァの姿で戦った後はもう終わり、それだけを考えていたものだからあの戦いで亡くなった部隊の人のひとり。ビアレス。そうクライヴはその人と私の命を奪おうとしたティアマトだけの名前を教えてくれた。
(ジルへ手を掛けたらそれこそ父上とジョシュアへの裏切りとなる―あの日俺はティアマトを裏切った)
ティアマトと違ってビアレスは―…君だと気付かず目標のシヴァのドミナントだと囲んだ時にはすでに死んだ後だったとそう語っていた…。タイタンがニサ渓谷を崩した落石に巻き込まれたのだと。
(あなたはその人を助けようとしていたのね)
(そんな立派なものじゃない。ジョシュアを助けられなかった自分から逃げていただけだ)
あなたは私にあるもの—…断ち切りたかった過去…罪そのものを受け入れて。
そうして私を人へと戻してくれた。
あなたは私の心を見た。その内なるところを、今の私そのものを。
ずるい、と思うのは私があなたの心が見られないから。
だからあなたの瞳を見つめる。そこから伝わる愛を、私だけに向けられる確かなものがここにある。大好きな私の宝物。
(見つけるから)
(だから今この時だけでも)
この腕の中であなたの鼓動を聴かせて。
・ふたりと、3人で
望郷組
騎士の兄、公主の弟。
産まれてからすぐに弟の方が覚醒すると、ほどなくして兄の方は公子から位は落ちることになってもその道を選んだ。身体が弱い弟は書物を開き始めた。ほどなくしてその頭角を顕わにしていく。兄の方も元から王侯貴族として与えられる責務を引き受ける為に勉学に励んでいた。
第一王子に対する母親の冷遇もあり、第二王子とは剣の稽古を始めると共に距離が置かれた。とはいえ弟の方もなかなかどうして賢い。上手く取り巻きの貴族たちの目をすっとかいくぐり。王妃のその対応に君主であり父であるエルウィン大公のさりげない手助けもあり、兄の部屋で宝探しや本をふたりで遊んだり読んだりするのは楽しかった。
上が齢9つ。下が4つとなると6つになったばかりの北部地方において首領である白銀公の娘が和平の証としてロザリアに差し出された。一見こじんまりしているようですっと上げた顔からはここに来た意味を一生懸命に受け止めているように見えた。
幾人かの貴族たちや兵士たちそして役人たちが大広間にごった返している。王妃はその少女に対しても冷たい視線を送っていたが兄弟ふたりがそこから守るように彼女にあてがわれた部屋へ案内をすることにした。
「ここだ」
「荷物はだいじょうぶ?必要なものがあったらにいさんでも良いし、近くの侍女たちに言ってね」
ぼくに、とジョシュアが言わないのはすでに自分の立場を弁えなければならないと教えられてきたからだ。
「…ありがとう」
大きくはないが決して聞こえないほど小さくもない、まだ戸惑いも感じるが彼女はきちんと礼を述べてくれた。
「落ち着いたら、不死鳥の庭園を見に行こう」
クライヴがそう勧めると少女―ジルはそっと彼を見つめた。
「あ、そうだね。いままでぼくとにいさんだけだったけど。これからは3人だ」
「3人で…」
きょうだいがいなかったからだろう。ひとりから急に3人で動き回るという経験はないからか。どう返して良いのか分からないらしい。
「すぐに慣れるさ。緊張しなくて良い。ここにいて良いんだ」
「もっと、大きくなったら。いっしょに旅をしたいね」
貴族として到底叶わない願いではあっても。素直な弟のその願いをそっと心の中に秘めた。
少しの休息の為にこの右手にナイトとして誓い祝福をうけたあの日からずっと宿っているフェニックスの祝福を通して炎を灯らせ焚き火を起こす。
右側には弟が。左側には彼女が。ちょっとだけ離れたところに相棒も。
彼に寄り添いそうして焚き火からお互いに温まる。心の方も。
“遊びに来た訳じゃないんだぞ”
ようやく再会出来て。行動を共にするようになってからそれほど経った訳でもない。辛い現実にずっと抗う日々を重ねて来た。
それでもそれを願っていた弟は変わっていなかったから3人で旅が出来て嬉しいよと言葉にしてくれて。本当は叶えてやりたい、今はまだ成し遂げた訳じゃないと返したものの実のところ自身も心からそれを願っていると改めて認識した。
隣で肩に頭を乗せ寄り掛かる愛おしい彼女のほっとした吐息が耳に心地よい。ふたりでどれほど時間が掛かったとしても外の大陸へ青空を取り戻してから必ず行く。
幼子の時から頭角を見せていた弟は目覚めてから兄を守ろうと強い絆と共に才を顕わにした。ハルポクラテスとインビンシブルでよく語り合っている。モースのように書物を記すと教えてくれた。兄さんと僕らドミナントの生き様を記したいと。魔法が消え人の歴史が始まったずっとずっと後の世界で。誰かが見出せるように。
兄と弟のふたり、彼と彼女のふたり。そして3人でこのヴァリスゼアを行く先を見届けながらトルガルとまた青空の下で旅をするのだ。
ふたりと、そして3人にとって。
このヴァリスゼアの舞台を変えるその時は間近に迫っている。
・外から
ジルとヨーテ
髪をとかすといっても髪質は異なるので男性たちと女性たちでは櫛を使い分けていた。
ミドの髪を丁寧にジルが梳かしたり、ハイデマリーの髪をドリスが梳かしたりして。
あなたのもするわとジルがクライヴに伝えると。
ジルやミドほど柔らかくはないぞと彼は返す。
ジル「そう思ってね、ロザリアに大きなホーン種がいるでしょう。倒した時に手に入れた牙を加工してもらってあなた用に作ってもらったの」
そこまでしてもらって好意を受け取らない訳にはいかない。
自分でするさと言うつもりだったが嬉しそうな彼女の様子に大人しくサロンの席に腰掛けた。
楽しんでいるジルの様子と皆の視線を受けながらも微笑むクライヴの姿。
医務室以外にサロンでも皆の様子を観察すると良いとジョシュアから勧められたヨーテはふたりの様子を眺め。
翌朝早く出発前にジルへジョシュア様へ贈り物としてお綺麗な金髪に合う櫛を差し上げたいのですが…と相談を受けた。
ジル「ジョシュアなら木質が良いわね。後はお手入れとしてオリーブのオイルを。どちらもロザリアで手に入るから…」
ヨーテ「助かります。お代は…」
ジル「私とクライヴが払うわ。そうしたいの。あなたの想いがつまっていると伝えるから」
ヨーテ「以前もクライヴ様へストナ草を依頼致しました。頼ってばかりで申し訳ありません…」
ジル「ううん。あなたがずっとジョシュアの傍にいてくれたから。これはあなたへのお礼でもあるの」
ようやく再会して。兄弟ふたりで固い絆を確認し合った後に。
ふたりはこみ上げて来た涙を流す彼らの幼なじみをしっかりと見つめた。
拠点にてしばらく眠りに伏し。目を覚ましたジョシュアはジルをまっすぐに見つめ“ずっと兄さんの傍にいて支えてくれてありがとう”と微笑んで礼を告げた。
(あなたが生まれて来て…あなたがいてくれたから。クライヴは生きていた。
そしてあなたが生きていると知ってふたりでここまで来たの)
彼の核となっている人が誰なのか本当はもう、少女だった頃からずっと。
分かっているのだ。
ジョシュアは認めてくれて。大切にしたい内なるものを声にしてくれた。
ヨーテも本当は気づいているのだろう。
“おふたりが…あの方がそうして下さるなら心強いです”
例え外からでも。
内なるところになれなくても。
支えて、守りたい。
彼らは出会えて嬉しい大切な宝物なのだから。
・ささやかに
(ジョシュアとヨーテ)
ジョシュア「兄さん」
クライヴ「どうした、ジョシュア」
ジョシュア「ヨーテにちょっとしたものでも良いからお礼をしたいのだけど」
クライヴ(ジョシュアを気遣いストナ草のことも教えてくれたな)
「俺もそうしたい。必要なものならジルやタルヤを通して聞けるが…」
ジョシュア「そこなんだよね。僕や兄さんではヨーテは遠慮するだろうし…」
通りかかった作家を目指しているエディータがふたりに声を掛ける。
エディータ「ごめんなさい、盗み聞きをしたわけじゃなくて聞こえてしまったの。
なら、こうするのはどうかしら—・・・」
※
タルヤの医務室にて—。
ジョシュア「ヨーテ。少しだけ良いかな」
ヨーテ「はい。ジョシュア様」
ジョシュア「インビンシブルの教室で子どもたちと読む書きを一緒に学んでいる女性がいるのは知っているよね。彼女は授業の後、ヴァリスゼアのあちこちを見て回っている兄さんやジルを含めてここの皆の経験談から子どもたちと語り合っている。君も僕と共に各地を回り事細かに書き記していたね。その内容を少し彼女へ教えて上げて欲しいんだ」
ヨーテ「分かりました」
ぽつりぽつりとだったがヨーテは授業の後集まり合っている彼らの元でその日々を話す。エディータは頷きながらオウム返しに内容を繰り返し。子供たちとちゃんと語り合いながらヨーテの様子をよく見ていた。
その夜。サロンにてタブアンドクラウンのカウンター席にて話し合っているクライヴとジョシュアの元へエディータが駆けつける。
エディータ「彼女はロザリアの…ジョシュア、あなたが語った過去の場所と。それとクリスタルロードを通った時にあなたは月を見上げていたそうね。そのことがよく印象に残っているみたい」
クライヴ「月か…」
ジョシュア「いつだって僕をよく気遣ってくれている」
エディータ「あと、馬(チョコボ)の世話もよくしていたのね。クライヴ、あなたがメイヴと語り合っていたのとは別に大変な時もあったのでしょうけれど。ちょっと楽しそうだったわ」
ジョシュア「馬(チョコボ)もふたりで乗れるようになるまでに結構時間が掛かったからね…。うん、こうしよう」
クライヴ「良い案が浮かんだみたいだな」
ジョシュア「兄さん、明日またここを出る時に僕とジルの馬(チョコボ)から。馬小屋で抜けた綺麗な羽を集めてもらって。戻ったら子どもたちとここで飾りを作るよ」
兄に託しているフェニックスの尾とは別に。お守りというよりこれまでの旅路を彼女が大切に抱いている思い出そのものとして。ありがとうと感謝と共に。
クライヴ「良いな。俺からの感謝も乗せてくれ」
繋いだ手
クライヴ→ジルからの。
微かなジル→クライヴ。
すでに辺りは暗くなっていた。ベアラー保護活動をシドから引き継いで2年。
新たな拠点場所を見出しかつてのシドが作り上げていた隠れ家と同じく中を整えるのをひっきりなしに生き残った皆と新たに加わったベアラーたちと共に協力し合いながら続けている。
この度ザンブレク皇国領内にて連れ出せた3人のベアラーたちは幸いにして火種となるような戦いを避け、カローンが差し出した貴族好みの装飾品と実用性はないが豪華な飾り付け用の短剣を差し出すと相手は取引に応じた。
ベアラーならいつでも買えるしな、と心の奥が痛くなるひと言を残して。
“ああ、もっと役に立つ奴らを知っているなら紹介してくれよ”
…これがこのヴァリスゼアの現実なのだ。
保護した3人は産まれも育ちも違うと小さな声で教えてくれた。
3人とも怯えていた。真ん中の一番年下であろう短い茶髪の少女の前にかがみ手を差し伸べてそっと“人らしい暮らしをしている所に行こう”と囁いてみた。
おずおずと俺の手を取り。そうして繋がりを持ち始めた。
彼らを先にドリスとコール、そして少し増えた石の剣の彼らに先に案内を頼み、また後でなと声を掛ける。
3人とも戸惑いながら振り返って、真ん中の子が少し微笑んでくれた。
石の剣のメンバーに守られながら歩み出した。歩き方がしっかりはしていたので大きな重症がないことに安堵した。着いたらタルヤが診てくれるはずだ。
日が完全に沈んで月が姿を見せる。今日は三日月だ。メティアの位置は変わらない。
シンとした静けさと共に空気が冷えて来た。芯から身体が冷える季節が巡って来たのだ。
イサベラやカンタンに報告をしようとジルに伝え。ふたりで歩み出す。
皇都オリフレムから神皇を含め貴族たちと多くの民が自治領へと住まいを移した今ドラゴニエール平原含めかつては要塞を含め要でもあったノースリーチは寂しくはなっているが好都合だ。
ダルメキアは未だあの男―フーゴの支配下にある。今度はそちらへ旅立つ訳なのだが気をさらに引き締め向かうことになるだろう。
足元が険しくなっている監視塔の麓。そっとジルへ手を差し伸べた。彼女も彼の手を取る。
“私も受け止めるから”
再会してから君はずっとその言葉の通り。お互いに離れることはなく歩んできたはずだ。俺もまた前に進むのだと決めたその通りに。
どれほど厳しい現実が押し寄せようと、シドの前にてふたりで誓ったのと同じ様に。
日が落ちると急激に冷え込んでいく。しっかりと彼女の手を握った。さきほどの少女はおずおずと握り返していた。
ジルはしっかりと握り返してくれている。氷の魔法を使っているとはとても思えないほど彼女の熱が籠っているというより本当は優しい女性(ひと)なのだと穏やかに伝わる温かさがここにある。
それと共に、まだ見せようとしない何かも感じる。
それを問い明かそうとするのは今では、ない。
だから、俺からも炎をそっと君に送りそして灯す。
奇跡と呼ばれる魔法ではない。フェニックスの力でもましてやイフリートのものでもない。
“ここにいる”
必ず君を見つけ出すと。
しっかりと繋いだ手から彼の想いは伝わってくる。
氷の魔法のように冷え切ってしまわないようにと彼女だけに向けられた炎のような揺らめきそして燃え立ち奮い立たせる想いそのものが。
あの日と同じなのだろうか。あなたが私を見つけ出してくれた時と。
(でも、それだけではだめ…)
この世界の現実は、それだけでは駄目なのだ。
あの国とあの男との因縁を断ち切らなければ。
(あなたと、ずっと)
あなたの傍にいられた時が確かに私は人だった。
だからこそ、願うのだ。
ジルはそっと月を見上げた。冷え切った静かな空気の中。震えそうな心が隣に寄り添い赤く輝くメティアへ祈り叶った願いと繋いだ手から来る温かさ。
そのふたつから凍えることなくちょっとだけ早まる鼓動、そっとした安堵から来る白い息と共に彼の手をしっかりと握り返していた。
・雪
望郷組
※少年期
はらはらとどんよりした曇天から白い雪が落ちて来た。
「昨日の夜から冷えていたよね」
手先が冷えて来たのだろう、5つ年下の弟がはあと小さな掌へ息を吹きかけた。
「ジョシュア、お前の気持ちは嬉しいよ。だが身体に障る。今日はもう屋敷に」
アナベラが取り巻きの貴族たちとザンブレク皇国から来た幾人かの貴族との交流会を設けている今なら。ジョシュアはきちんと挨拶を済ませた後、ロズフィールド家に課せられた課題の為にと抜け出したのだ。
母は良い顔をしなかったが、父が公子としての務めは十分に果たしたと去らせてくれたのだ。
やっと訪れた少しだとしても自由に過ごせる時。兄の稽古を見届けたいと付いていこうとする弟の体調を気遣い止めようとすると。
「そう思ってね。さらに上着を持って来たわ」
細やかな気遣いが出来る幼なじみの少女が颯爽と姿を現した。
「…だね。さあ急ごう兄さん。感づかれたら母様に僕以上に兄さんに責任が問われるよ」
日課でもある稽古をこなしている間、ふたりも見えないところでしっかりとそれぞれの役割を果たしてくれているのだと嬉しくもありくすぐったくもあった。足元ではトルガルがどんよりした空と雪をじっと見つめていた。
昼下がり。空から降る雪は粉雪ほどだったのが重さと密度が増して来た。
「今日は早めに切り上げた方が良さそうですね」
軽めの休憩と食事を取り。グローブ越しに手の平に落ちてきた雪をそっと眺める。あっという間に溶けていった。
ふたりもその様子を両隣で見届けていた。
「ロザリアでこんなに大きな雪が降るのは珍しいね」
「私が来る前はそうだったのね」
ジョシュアがうん、と頷き。
「北部はすごそうだね」
「…小さかったから、あまり覚えていないわ」
誰も彼もが白銀公の娘をどう役立てようかとそればかり話し合っていて。
そっと大広間を抜けだして自分の部屋に戻っても誰も気にしていなかった。
窓越しに見える大粒の雪は地面を真っ白な絨毯にして。
このままここを進んで消えてしまっても。雪が足跡さえ覆い隠してくれて気づかれないかな。そう思っていた。
ここに来てからそれはなくなった。
ここで、ふたりの傍で、ずっと。それが私の産まれてきた意味。
あなたと出会う為に。
「積もるのかな」
凍えないように持ってきたもらった上着にくるまりながらジョシュアがぽつりとそう零した。
「それほどではないだろうな。さて、稽古の再開だ」
「うん!」
「気をつけて、クライヴ」
ふたりが凍えないで済むように炎を灯らせるかのように彼が前に出た。
トルガルもキャン、と元気に吠えていた。
最後に雪を見たのはあの日だった。
召喚獣の力を失い。そして氷の魔法だけとなり人に戻りつつある今では鮮明に思い出せる。
あのまま降りしきる雪の世界へ消えなくて良かったと。
心が凍ったままで生きていくことはもうないのだと。
可愛い
(クライヴ→ジル)
ロザリスに来られたばかりの頃から可愛らしい方だとそう思っておりました。
ここ最近は成長されるにつれて姫様は綺麗になられておられますねと侍女たちがロザリス城内のそれぞれ割り当てられた務めを果たしながらそう楽しそうに囁き合っている。その話題をアナベラが通りかかるものならすぐに引っ込めるだろうがクライヴの前では違う。
ふたりでトルガルも連れて偶に—今日はジョシュアを不死鳥の庭園へ来れず残念だったねと庭師たちへ感謝も込めて挨拶に回ると—ほら、クライヴ様と姫様が…などと和気あいあいとした声が上がるのだ。
ジルとトルガルにこれから稽古に出ると軽く手を上げこの場を去って行こうとするとひとりの侍女が後で姫様に頼んで軽食をお持ち致しますと俺に近づいて来た。
「ああ、助かる」
「ちょっとだけ教えてください。クライヴ様に姫様はどう見えておられるのですか?」
「どうって…」
これからは彼女もロザリアの一員だからな—。
父上のその言葉を思い出した。
「ジルなら…妹であり、ロザリアの一員だ」
「もうっ!他にもあるでしょう」
何故ここまで声を荒げるような事態になるのだろう。
「妹みたいに可愛いとそう思っているさ」
ジョシュアが誓いと共に必ず守るべき弟であるとするなら。
ジルの傍に—、いや…ジルが傍にいてくれると安心する。
そのつもりで言ったのだが話しかけて来た侍女は不服そうだ。
自覚がないのでしょうかね…少し呆れ気味な彼女のその様子に、
「大切なんだ。ここに居てくれるのが当たり前だなんて思っていない。
それは君もここで暮らしているロザリアの民たちも同じだ」
そう返しておく。
クライヴ様らしいですねと若干の不満は残っている様子だったが微笑んでくれた。
再会してから、鉄王国で溶岩の流れを止める為にシヴァの力を半顕現姿で行使している君の姿を見た時に浮かんだ感情は—あまりにも美しく“綺麗”だった。
強烈に何かに惹かれるとはこうしたものなのだろうかと身体の芯から熱くなる。
だけどそれを君へは注がない。
この力が人でありたい君を運命のように縛り付けそしてずっと苦しめていたのだと知ったのだから。
俺を守ろうと氷のように固く時には鋭く研がれたその意思の源である君自身に目を向けなければ。君の心そのものへ。
過去もこれからの君を受け入れる。
そして、不死鳥の盾として誓った時から灯された俺自身の炎を君へと注ぐ。
そうして、溶けていったものからほんとうの君を見つけ出して。
力強くこの腕に抱きしめて。お互い満たされていく。
・聴かせて(ジル→クライヴ)
目を覚まして再会出来てから直ぐに、あなたのこれまでを知って。
そして受け止めると決めた。だからそう伝えたの。
それだけでは私の心は動かないって頭では分かってはいたのに。
タイタンとシヴァの姿で戦った後はもう終わり、それだけを考えていたものだからあの戦いで亡くなった部隊の人のひとり。ビアレス。そうクライヴはその人と私の命を奪おうとしたティアマトだけの名前を教えてくれた。
(ジルへ手を掛けたらそれこそ父上とジョシュアへの裏切りとなる―あの日俺はティアマトを裏切った)
ティアマトと違ってビアレスは―…君だと気付かず目標のシヴァのドミナントだと囲んだ時にはすでに死んだ後だったとそう語っていた…。タイタンがニサ渓谷を崩した落石に巻き込まれたのだと。
(あなたはその人を助けようとしていたのね)
(そんな立派なものじゃない。ジョシュアを助けられなかった自分から逃げていただけだ)
あなたは私にあるもの—…断ち切りたかった過去…罪そのものを受け入れて。
そうして私を人へと戻してくれた。
あなたは私の心を見た。その内なるところを、今の私そのものを。
ずるい、と思うのは私があなたの心が見られないから。
だからあなたの瞳を見つめる。そこから伝わる愛を、私だけに向けられる確かなものがここにある。大好きな私の宝物。
(見つけるから)
(だから今この時だけでも)
この腕の中であなたの鼓動を聴かせて。
・ふたりと、3人で
望郷組
騎士の兄、公主の弟。
産まれてからすぐに弟の方が覚醒すると、ほどなくして兄の方は公子から位は落ちることになってもその道を選んだ。身体が弱い弟は書物を開き始めた。ほどなくしてその頭角を顕わにしていく。兄の方も元から王侯貴族として与えられる責務を引き受ける為に勉学に励んでいた。
第一王子に対する母親の冷遇もあり、第二王子とは剣の稽古を始めると共に距離が置かれた。とはいえ弟の方もなかなかどうして賢い。上手く取り巻きの貴族たちの目をすっとかいくぐり。王妃のその対応に君主であり父であるエルウィン大公のさりげない手助けもあり、兄の部屋で宝探しや本をふたりで遊んだり読んだりするのは楽しかった。
上が齢9つ。下が4つとなると6つになったばかりの北部地方において首領である白銀公の娘が和平の証としてロザリアに差し出された。一見こじんまりしているようですっと上げた顔からはここに来た意味を一生懸命に受け止めているように見えた。
幾人かの貴族たちや兵士たちそして役人たちが大広間にごった返している。王妃はその少女に対しても冷たい視線を送っていたが兄弟ふたりがそこから守るように彼女にあてがわれた部屋へ案内をすることにした。
「ここだ」
「荷物はだいじょうぶ?必要なものがあったらにいさんでも良いし、近くの侍女たちに言ってね」
ぼくに、とジョシュアが言わないのはすでに自分の立場を弁えなければならないと教えられてきたからだ。
「…ありがとう」
大きくはないが決して聞こえないほど小さくもない、まだ戸惑いも感じるが彼女はきちんと礼を述べてくれた。
「落ち着いたら、不死鳥の庭園を見に行こう」
クライヴがそう勧めると少女―ジルはそっと彼を見つめた。
「あ、そうだね。いままでぼくとにいさんだけだったけど。これからは3人だ」
「3人で…」
きょうだいがいなかったからだろう。ひとりから急に3人で動き回るという経験はないからか。どう返して良いのか分からないらしい。
「すぐに慣れるさ。緊張しなくて良い。ここにいて良いんだ」
「もっと、大きくなったら。いっしょに旅をしたいね」
貴族として到底叶わない願いではあっても。素直な弟のその願いをそっと心の中に秘めた。
少しの休息の為にこの右手にナイトとして誓い祝福をうけたあの日からずっと宿っているフェニックスの祝福を通して炎を灯らせ焚き火を起こす。
右側には弟が。左側には彼女が。ちょっとだけ離れたところに相棒も。
彼に寄り添いそうして焚き火からお互いに温まる。心の方も。
“遊びに来た訳じゃないんだぞ”
ようやく再会出来て。行動を共にするようになってからそれほど経った訳でもない。辛い現実にずっと抗う日々を重ねて来た。
それでもそれを願っていた弟は変わっていなかったから3人で旅が出来て嬉しいよと言葉にしてくれて。本当は叶えてやりたい、今はまだ成し遂げた訳じゃないと返したものの実のところ自身も心からそれを願っていると改めて認識した。
隣で肩に頭を乗せ寄り掛かる愛おしい彼女のほっとした吐息が耳に心地よい。ふたりでどれほど時間が掛かったとしても外の大陸へ青空を取り戻してから必ず行く。
幼子の時から頭角を見せていた弟は目覚めてから兄を守ろうと強い絆と共に才を顕わにした。ハルポクラテスとインビンシブルでよく語り合っている。モースのように書物を記すと教えてくれた。兄さんと僕らドミナントの生き様を記したいと。魔法が消え人の歴史が始まったずっとずっと後の世界で。誰かが見出せるように。
兄と弟のふたり、彼と彼女のふたり。そして3人でこのヴァリスゼアを行く先を見届けながらトルガルとまた青空の下で旅をするのだ。
ふたりと、そして3人にとって。
このヴァリスゼアの舞台を変えるその時は間近に迫っている。
・外から
ジルとヨーテ
髪をとかすといっても髪質は異なるので男性たちと女性たちでは櫛を使い分けていた。
ミドの髪を丁寧にジルが梳かしたり、ハイデマリーの髪をドリスが梳かしたりして。
あなたのもするわとジルがクライヴに伝えると。
ジルやミドほど柔らかくはないぞと彼は返す。
ジル「そう思ってね、ロザリアに大きなホーン種がいるでしょう。倒した時に手に入れた牙を加工してもらってあなた用に作ってもらったの」
そこまでしてもらって好意を受け取らない訳にはいかない。
自分でするさと言うつもりだったが嬉しそうな彼女の様子に大人しくサロンの席に腰掛けた。
楽しんでいるジルの様子と皆の視線を受けながらも微笑むクライヴの姿。
医務室以外にサロンでも皆の様子を観察すると良いとジョシュアから勧められたヨーテはふたりの様子を眺め。
翌朝早く出発前にジルへジョシュア様へ贈り物としてお綺麗な金髪に合う櫛を差し上げたいのですが…と相談を受けた。
ジル「ジョシュアなら木質が良いわね。後はお手入れとしてオリーブのオイルを。どちらもロザリアで手に入るから…」
ヨーテ「助かります。お代は…」
ジル「私とクライヴが払うわ。そうしたいの。あなたの想いがつまっていると伝えるから」
ヨーテ「以前もクライヴ様へストナ草を依頼致しました。頼ってばかりで申し訳ありません…」
ジル「ううん。あなたがずっとジョシュアの傍にいてくれたから。これはあなたへのお礼でもあるの」
ようやく再会して。兄弟ふたりで固い絆を確認し合った後に。
ふたりはこみ上げて来た涙を流す彼らの幼なじみをしっかりと見つめた。
拠点にてしばらく眠りに伏し。目を覚ましたジョシュアはジルをまっすぐに見つめ“ずっと兄さんの傍にいて支えてくれてありがとう”と微笑んで礼を告げた。
(あなたが生まれて来て…あなたがいてくれたから。クライヴは生きていた。
そしてあなたが生きていると知ってふたりでここまで来たの)
彼の核となっている人が誰なのか本当はもう、少女だった頃からずっと。
分かっているのだ。
ジョシュアは認めてくれて。大切にしたい内なるものを声にしてくれた。
ヨーテも本当は気づいているのだろう。
“おふたりが…あの方がそうして下さるなら心強いです”
例え外からでも。
内なるところになれなくても。
支えて、守りたい。
彼らは出会えて嬉しい大切な宝物なのだから。
・ささやかに
(ジョシュアとヨーテ)
ジョシュア「兄さん」
クライヴ「どうした、ジョシュア」
ジョシュア「ヨーテにちょっとしたものでも良いからお礼をしたいのだけど」
クライヴ(ジョシュアを気遣いストナ草のことも教えてくれたな)
「俺もそうしたい。必要なものならジルやタルヤを通して聞けるが…」
ジョシュア「そこなんだよね。僕や兄さんではヨーテは遠慮するだろうし…」
通りかかった作家を目指しているエディータがふたりに声を掛ける。
エディータ「ごめんなさい、盗み聞きをしたわけじゃなくて聞こえてしまったの。
なら、こうするのはどうかしら—・・・」
※
タルヤの医務室にて—。
ジョシュア「ヨーテ。少しだけ良いかな」
ヨーテ「はい。ジョシュア様」
ジョシュア「インビンシブルの教室で子どもたちと読む書きを一緒に学んでいる女性がいるのは知っているよね。彼女は授業の後、ヴァリスゼアのあちこちを見て回っている兄さんやジルを含めてここの皆の経験談から子どもたちと語り合っている。君も僕と共に各地を回り事細かに書き記していたね。その内容を少し彼女へ教えて上げて欲しいんだ」
ヨーテ「分かりました」
ぽつりぽつりとだったがヨーテは授業の後集まり合っている彼らの元でその日々を話す。エディータは頷きながらオウム返しに内容を繰り返し。子供たちとちゃんと語り合いながらヨーテの様子をよく見ていた。
その夜。サロンにてタブアンドクラウンのカウンター席にて話し合っているクライヴとジョシュアの元へエディータが駆けつける。
エディータ「彼女はロザリアの…ジョシュア、あなたが語った過去の場所と。それとクリスタルロードを通った時にあなたは月を見上げていたそうね。そのことがよく印象に残っているみたい」
クライヴ「月か…」
ジョシュア「いつだって僕をよく気遣ってくれている」
エディータ「あと、馬(チョコボ)の世話もよくしていたのね。クライヴ、あなたがメイヴと語り合っていたのとは別に大変な時もあったのでしょうけれど。ちょっと楽しそうだったわ」
ジョシュア「馬(チョコボ)もふたりで乗れるようになるまでに結構時間が掛かったからね…。うん、こうしよう」
クライヴ「良い案が浮かんだみたいだな」
ジョシュア「兄さん、明日またここを出る時に僕とジルの馬(チョコボ)から。馬小屋で抜けた綺麗な羽を集めてもらって。戻ったら子どもたちとここで飾りを作るよ」
兄に託しているフェニックスの尾とは別に。お守りというよりこれまでの旅路を彼女が大切に抱いている思い出そのものとして。ありがとうと感謝と共に。
クライヴ「良いな。俺からの感謝も乗せてくれ」