琥珀

クライヴと植物園のナイジェル、タブアンドクラウンのメイヴ。
拠点初期メンバー(シド、オットー、タルヤ、カローン、ケネス)も。
そして、ロズフィールド兄弟。



ことりとスタールビーほど立派でなくともいくつかの煌めく蛮族硬貨や黒水、そして空の文明時代が確かにあったと証する欠片。研究者たちの間では特に好まれるものだ。
換金用と言ってしまえばそれまでだが店の主はスタールビーの値打ちをすぐに引き出し。
そしてどこの誰かのかは知らないけどね、とこのインビンシブルの拠点の為に多額のギル硬貨をサロン内へそっと置き去りに―意図を見抜いたリーダーの眼差しに気づいた彼女はふん、といつもの調子で返しただけだったが―そうしたやり取りもした商人の店に持ってくれば後は全て任せられる。
並べられたそれらの内カローンがひとつ拾い上げた。
「さしずめあんたに切りかかった兵士崩れが持っていたのかい」
長い年月を掛けて作られた、黄金色の涙。
「いや、アカシア化した植物系の魔物が…エーテル溜まりに飲み込まれる前に輝くものを取り入れようとしたのかも知れない」
青空が覆われてしまったこのヴァリスゼアでは目の前に掲げてみても、鈍い輝きを放つだけだ。
「…空の時代のこれと一緒にナイジェルの所へ持って行ってやんな、面白い話をしてくれるさ」
勧められるまま、植物園へと足を運ぶ。

青空が覆われた日々を重ねるごとに不安は誰しもが募っていく。それでも植物園に変わらず花がまだ咲き誇ってくれているのはひとえにチョコボの糞から良い肥料を耕し水やりも欠かさないヴェスナやシャルル、フレデリカたち。ボフミル達の遺志を継ぐコルマックが美味しい果実を生らせたマーテルの木と同じようにかつての仲間たちの名を苗木に刻み語り掛け。その世話を懸命にしてくれているからに他ならない。
黒の一帯のこのど真ん中で変わらず芽を育て小麦の収穫が大変厳しくなっている今この時だからこそ絶え間ない研究を続けてくれていて感謝すると現在の園長でもあるナイジェルに伝え、カローンがこれをと琥珀と空の時代の遺跡の欠片を彼の目の前の台にそれぞれ並べる。
ナイジェルはすぐに意図を掴んだらしく、カローンと同じく目の前に掲げ。
ボフミルさんの研究日誌にも。琥珀は鉱山が多いウォールード王国では貴重でしたから、シドとの想い出として綴られていましたよと教えてくれた。
バルナバスとの戦いに繋がる幻想の塔への道筋。そしてマリアス教を信奉する村人とそれに心酔したフェニックス教団のひとりの男が迎えた末路を目の当たりしたクライヴにとって、ウォールード王国への物差しとかつての隠れ家は空の時代の遺跡を加工出来るところまで作り上げたものであったから―その技術はロストウィングのカンタンも同じである―どちらかと言えば空の時代の遺物の方がシドに近いのではと考えていたのでその答えは意外ではある、ナイジェルが吹き布と小麦の小さな藁を取り出し琥珀を布で軽くこする。
すると細かい藁が琥珀に引っ付いた。
「こうすると小さな引っ付けるような力が生じる。ある学者がラムウの雷の力に近いと研究報告を出したとされています。ボフミルさんはこうした成果に研究を積み重ねていくなら魔法に頼らなくて済む手段が必ず見つかると。…あなただけでない、かつての隠れ家の皆も…シドの限界が近いのだとどこかで悟っていたはず―…」


風大陸中央部黒の一帯。
先陣切って―といっても行けども目にするものは真黒なエーテルが失われた死の大地なのだ。
こんな所に用がある奴なんかいるものか。
ましてや、暮らして行こうなどと。
最後尾のケネスがやれやれと追ってくる奴なんていないよな?と息を切らせながらオットー、タルヤ、カローンの後を追う。
シドはそのすぐ前を軽快に進みながら軽く振り返り片手を上げそして彼らへ微笑んだ。

「ほんっとに、何もねえなあ…」
「ビンゴ、空の文明時代の遺跡だ」
「そりゃこのヴァリスゼア大陸のあちこちに遺跡はあるんだ。ここも黒の一帯に沈む遥か前に人が住んでいたんだろうからあるに決まっているさ」
「さて、ここでどうやって薬や医療用の寝具を運び込むか、ね」
「あたしは店さえ開かせてもらえればそれで良い。儲けがちゃんと出るやり方でね」
「んじゃ、各自とりあえずどこに手前の場所を確保するか。決めてくれ」

洞穴か、と思っていた中は入ってみると広い空間だった。
オットーが辺りを確認しながら静まり返ったその空間と。そして天井を見上げる。空の時代の人はどのような生活を営んでいたのだろう、誰しもがすぐに沸き起こる疑問であるが答えを得る手段など自分たちは僅かだ。ふと石壁に近い独特の模様が彫られた遺物が目に入った。嫌な―妙な気配を感じる、が。どん、と叩いてみても特に反応はない。気のせいなのだろうか。

カローンが逆の方向へと進み目に入るいくつかの空間と繋がっていることに気が付いた。ちょうどここは出入り口にも近い。
商人たるもの流通とこれからシドが引き寄せるであろう鍛冶の存在が重要となってくる。
「あたしはここに決めた」

段を上がった直ぐそこも広い空間だった。
スプーンひとさじのはちみつと、新鮮な卵1個。そしてひとかけらのバター。
ベアラーたちは温かい食事などありつけない。それは身をもってケネスは知っている。
ましてやたったひとくち、ひとくちだけだぜ?口に含めればたちまち目の輝きは戻り力が湧いてくるこれらを彼らへ与えてくれる存在など。
だからこそ、これからどんどん保護されるであろうベアラーたちに出会って、接して。そして食べさせてやりたい。まずは温かいシチューと共に。俺もベアラーだけどこうして温かいものを作ってお前たちに食べさせられる。パンにひとさじのはちみつ掛けてみろよ。な。旨いだろ?
美しい青空を眺めながらパンをかじる。それはとても幸せなことなんだよって知ってもらう為に。
「他に必要なのはニワトリスだよな…飼育係に、植物に…」
(あとはエールか)
まあ、これはかなり時間が掛かるなあ。

「大体の見当をこちらもつけられたわ。寝床も確保出来そうよ」
「よし、これからだ」

タルヤとシドのそのやり取りをどこか遠くに耳にしながら。オットーは再び辺りを見回した。

―これはここに置こう。
―もうすぐ産まれるからってそんなはしゃいで。ああ、木馬までお手製なの。ありがとう、オットー。
―自分の舟を持つ渡し守にしちゃ、これくらい何てことはないさ。
―早く会いたいわね。
―ああ、シドもすごく喜んでいる。


あの日の妻とのやり取りが色褪せてしまいそうになる。たったひとつの掟(ルール)で全てが終わった。
…泣いている所なんて人には見られたくなかった。だが。目の前にいる男は何も出来なかったとずっと夜が明けるまで…俺の為に泣いてくれた。

シドが右腕を抑えた。タルヤがすかさず痛み止めを取り出しシドへすすめる。
「いや、おさまった。やることは山ほどあるぜ。暮らしていくってのは―そういうことだ」
(せめて誰もが等しく)
人として死ねるように。
オットーも、タルヤも。カローンやケネスも。覚悟と決意をとうに決めていた。世界への反逆ではないのだ。この世界の掟(ルール)がおかしいと動かなければ。そうでなければ何も変わらない。
シドが終わりを迎える前に、せめて。

築き上げてきたものが一夜にして失われた。
そこから立ち上がったのはまた、ひとりの男の存在。そこに人が集い合っていく。
このヴァリスゼアの世界が人として生きていけるように。


黒の一帯の中で空の文明時代の遺跡の欠片が風化しにくい理由。シドは今我々が持てるだけの技術で加工を出来る限り行っていた。そこにも鍵はあるはずですとナイジェルが古代の樹木から出た樹脂の化石である琥珀の研究とは違う角度から考えてみますと欠片を引き取り。返された琥珀はどうするかと一瞬考えてからタブアンドクラウンへと向かった。
メイヴがあらクライヴ、一杯やっていく?と声を掛ける。
これを、と彼女の手のひらに落とした。
「わあ、綺麗ね」
虫が入っていないものは珍しいのか感嘆の声を上げた。
「メイヴへ贈るよ」
「え、何?どういう風の吹き回し?」
かざしてみてくれと伝えるとメイヴはここって雨が降ると雨漏り大変なのよね、と話してくれた通りの方向へ高々と上げた。
鈍い光が黄金の涙へと差し込む。
「もっと光が差し込めばすっごく綺麗なんでしょうね…」
メイヴとここで幾度も語り合いをした。
最初は、そう。ロストウィングの葡萄園にまつわるものだった。

―クライヴはチョコボの話の方が良かった?
―その人は彼女(想い人)に会いたくてチョコボに乗りながらひたすら飛んでいくストラスを見つめて…
―飛空艇と、ものすごい数の、ドラゴンたちがね―。
チョコボはね―…。

雨漏りがすごく大変なの。でも普段は―。

「ありがとう、クライヴ」
「一杯やりたいところだが、あいにく先を急ぐ。皆へ後で奢ってやってくれ」
カウンターへギル硬貨を積みながら次のアカシア退治へと意識を向けると。
「…オッケー。気を付けてね」
メイヴがギルを清算し、琥珀をもう一度見つめて、クライヴ。と立ち去ろうとする俺の名を再び呼んだ。
「どうした」
「ジョシュアに…青空を見せて上げて」
「…ああ」


そうして、またここで語り合いましょう。
青空の下で。この琥珀に光を差して輝かせながら。


※ナイジェルが起こしているのはいうまでなく静電気です。
琥珀を指すギリシャ語エレクトロンが電気に由来しているのでそこから。