クライヴとジル。ガブも少し。
鉄王国帰還後・両想いを確かめ合ってからロザリスへ向かう途中。


伝わる、伝える


フーゴが私情で自分の部下を引き連れ、蛇のごとき執念によるシドへの断罪を—今は皇国領内ベアラーたちへの粛清含めてアナベラによる圧政の下に置かれているロザリス—を蹂躙しようとしているとガブの知らせを受けてから。父上が差し伸べていた人そのものを見つめる精神が恐怖と共に消え失せようとしているのだと、愛する故郷を思うと胸が痛む。
スリー・リーズ湿地にて5年前ジルと共にロザリアへ帰って来た時。帰るのが怖かったと君へ伝えた。
為す術がない己の無力さを分かっていたから。弟を守れなかった、弱い自分。
現実を知ってから逃げ出そうとさえした。そこから立ち直れたのはシドやジルと。
そしてジョシュア。
人として生きていて欲しいと願った皆の存在があったから。


居ても立っても居られない心情をインビンシブルの隠れ家の皆は理解してくれて。
ヴィヴィアンと情勢を確認し合いながら、少年時代…今思えばそこで予兆を感じ取っていたのだ、ナイトとして初めての任務だった蛮族との戦い。
霧に覆われたスティルウィンドで黒の一帯の被害を初めて目の当たりにしながらヴァリスゼアで起きている現実へ抗おうと今まさにジル、ガブと共にアンブロシアたちに乗りながら一気に駆け抜けていた。
向こうがシドの名を受け継いだのが誰か知っているのならクリスタル・ロードは使えない。海路は断たれている。そうであるならとこの濃い霧が覆う一帯をルートとして選んだのだ。
「ゴブリンすら、居ねえな!」
後ろから同じ様に馬(チョコボ)を走らせるガブが周りに魔物の気配すら感じない為か大きな声で叫んだ。
「もう、何も残っていないと南下したんだろう」
かつては人々が暮らしていた形跡だけは少年の時にまだ残っていた。
建物はとうに朽ち果て、訪れる者がいない森は黒く枯れて死を待つだけだ。
ジルは静かに辺りを確認しながらフェニックスゲートへ向かう時へ目にした漆黒の森と同じ状況に心を痛めていた。ここもかつては美しい場所だったでしょうと…。
相手はフーゴだと知ってかつての隠れ家にて生き残った皆の辛そうな表情(かお)もまた。

奴との決着をつけたら、シドたちが眠るかつての隠れ家へ知らせに行こう。クライヴは出発する前にガブとジルへそう告げた。
多くの仲間を失いながら、何が起きているんだなあシドなんでここに居ないんだよと片目が既に使い物にならなくてもガブはあの日命がけでシドの部屋へと向かった。黒の一帯を止めるためにマザークリスタル破壊する―クライヴとシドの誓いの証。それは魔法により支配下に置かれたこの世界の檻を壊す、シドがこの隠れ家に招き入れてくれた時から彼自身も覚悟を決めた信念が具現化したもの。シドがクライヴとジルを頼りにしているとすぐに気づいたのだ。それはお前たちがオットーやばあさん、医者のタルヤにブラックソーン…俺たちがシドに付いて行ったのと同じ様に人を見つめていたから。そして何より、ベアラーたちよりさらに過酷な運命を背負ったドミナント同士だったから。
ふたりはその現実を知った。
シドが亡くなる直前にオリフレムの歓楽街でドミナントとベアラーたちが兵器や道具として石化し朽ち果てるまで人から見放され、死に場所すらまともに選べないこの世界の理(ルール)を教えてくれたと後からふたりが伝えてくれた。
そこから抗うための戦い。この証を失ってはだめだ、タイタンだろうと埋もれさせるものかと必死に抱えながら生き残ろうと皆と命からがら逃げ出した。
生き残っただけじゃだめだ、俺たちは生きていかなければ。そうでなければ助けを呼びながら、そして逃げろと命と引き換えに逃れさせてくれた彼らに何一つ詫びることすら出来ない。
潜伏している間ゴーチェが幾度もごめん…ごめんなさいとすすり泣きながらうなされていて…。俺だって、また家族を失った。皆とずっと一緒に居たかった…俺の願いなんてそれだけなのに。

—ただ、生きて欲しいと願っている。人として。
クライヴが俺たちを引き連れて新たな隠れ家―インビンシブルを見つけた後もこいつから伝わる想いはそれだった。

スティルウィンドを抜けるとロザリスは間近だ。
すでに日が落ちている以上休息をきちんと取りフーゴと彼の部下たちとの戦いに備えるべきであるがフェニックスゲートにての悲劇とロザリスが蹂躙されたあの日はここを抜けた後だったと思うとやはり居ても立っても居られなくなる。今まさに沢山の思い出がある生まれ育った故郷がまた苦しめられているのだ。
フェニックスの祝福が宿る右手から炎の魔法によって火を起こし。アンブロシアの頭を優しく撫でガブと同じく片目が傷ついたままの彼女へ憂いを含んだまなざしで見つめる。アンブロシアも片目と引き換えにクライヴを守りきりそしてまた出会えてここにいる。ガブとジルも彼女に付いて来た2頭を同じ様に丁寧に馬具を解きながら少しの間自由にしてやった。
3頭とも近くの川で水を浴びギサールの野菜をクチバシでつつきながら僅かな休息の時を過ごしている。俺はトルガルと一緒に辺りをちょっと見回ってくるわとガブは行こうぜトルガルと相棒を連れて行き。残されたふたりは知らなかったが出発前にガブはタルヤに軽く後ろ頭を小突かれた後。クライヴとジルがふたりきりになれそうならそうして上げなさいと意図は分かっていないが釘を刺されていた。故郷も目の前なのだ、積もる話も—明るくはなくとも覚悟を決めた者同士あるだろうとひとりと一頭がこの場をしばし離れる。
ロザリスの方角とはぜる火の粉を見つめながらクライヴが深く息を吐く。
ジルはその彼へ視線を向けてから、同じ様に焚き火を見つめた。
彼はぽつぽつとあの悲劇の前に今抜けて来たスティルウィンドにて蛮族であるゴブリン族、そしてモルボルの討伐をタイラー、ウェイドと終えた後―この世界に起きている異変について感じ取っていたのだと彼女に話した。
ああ、だからあなたはあそこでアカシア化したモルボルと戦った時に…。
異変ね。普段は大人しいファイアリザードが私達に敵意を持って向かってきたのも…。
きゅっとジルは両手を絡ませる。あの国で男達から向けられる気配は侮蔑と嫌悪。化け物と来る日来る日も恐怖で怯え切った彼女達を視界に収めた後、剣を握り魔法を放ちながら己の心を押し殺していた彼女にとって島にいた魔物たちの方がずっとまだ優しい存在だった。
クリスタルの枷を嵌められ何も出来ないまま目の前で助けを叫び続けるあの子たちの命を無残に奪うことなど、しなかった。
炎の近くにいるのに身体を少し震わせたジルの傍にもう凍えないで済むようにとクライヴは身を寄せる。
ふたりでロザリアに帰って来たあの日。かつての故郷はイーストプールと協力者であるマーサ達、教会にてベアラーたちの石化と共に迎える死に方すら選べない見捨てられた命の現実。疫病のように蔓延りクリスタルの檻による支配下と恐怖に置かれた精神。
シドとの誓いと共にロザリアだけでない。このヴァリスゼア大陸において今何を行ない目指すべきなのか。人が人として生きていける世界。それを望んで前に進むと決めたのだ。
…これから目に飛び込んでくる有り様も現実である。ベアラーたちを助けるためなら怪我などお構いも無く飛び出して。生傷絶えないわねとタルヤが語るように。ロザリアを助けられるだけの力があれば、本当は今すぐにでも。
それは出来ないとこの5年間、目指すものから目を逸らすことなく進んできたはずだった。
(だが…)
目指すものの為に戦いに次ぐ戦い。失われていく多くの命。そしてシドを狙ってフーゴたちによるロザリアが蹂躙されているこの現実。
揺らめく炎からジョシュアが守ってくれた意味について懐からフェニックスの羽根を取り出し再び考えを巡らす。

“兄さんは、この僕が守る”

ふと寄り添う彼女の気配がさらに近づいたのを感じた。
シドから受け継いだもの—黒の一帯により死に行くこのヴァリスゼアを強制的にも変えようとしている故に誰かが傷つき命が失われ実際に起きている現実についてふたりで話し合った後。
ジョシュアが与えてくれた2度目のチャンスだもの。
せっかくなら意味のある生き方をしてみない?と俺に伝え辛いことを共に受け止め合いながらいつだって支えてくれる君の存在。
大切にフェニックスの羽根をしまい込みながらクライヴはジルの手を取る。
キスは…まだお預けだと語ると可笑しくもあるがふたりはガブの声が掛かってから抗う為の険しい道へと意識を大きく向けることにした。互いの互いに対する想いそのものは分かってはいたつもりだが踏み出すには向き合わなければならない過去をふたりはずっと抱えていた。シドとの誓い。何よりジョシュアと会う為にも誇れる存在でいたい。
明日には思い出が沢山残っている故郷に向かう。それが壊されていく現実を目にしながら、戦わなければならない。ジルは誓いの源が宿るクライヴの右手を愛おしく頬に寄せながら。
“あなたの想いが伝わってくる”
そう青い瞳で彼を見つめまなざしで語る。
彼もまた青い瞳を彼女と絡め合い伝える。
“ロザリアでのジョシュアと君との思い出はちゃんと残っている”
だからこそ、辛く苦しいのだ。
そして。
(あなたは変わらず私を大切に想ってくれている)
この手に宿り彼の弟から来る誓いの核とはなれなくても。
ジルは瞳を閉じ、両手で頬に寄せたままのクライヴの右手を包み込む。
彼は彼女の頬をそっと指で優しく触れながら愛おしさを伝えた。

ひとりの人を通して、伝わる。伝える愛の仕方。
彼と彼女もまた人であり、人でありたいとこのヴァリスゼアの世界で望み歩んで行こうと心の中でお互いに歩み寄り確かめ合う。悲痛なものでなく、戦いの最中でもなく。互いに心から微笑み合いながら。その時が来たら、今度はと…。



辿り着いたロザリスでの戦いに置いてタイタンを宿すドミナントの男―フーゴは彼女の魔法を抑え込みながら言い放った。
「氷女」
お前の戦地での戦い方もシヴァのドミナントとしての力も俺はよく知っている。何せニサでタイタンを降ろしたのは他ならぬこの俺だからな。
もっと格の違いとやらを知らしめておけば良かったか。まあ、目的は氷女ではなくお前だ、クライヴ・ロズフィールド。
ふん思った通りだ、この女の為なら剣を手放す。
まあその為にこれほどの余興を用意したのだ。さてそろそろフィナーレと行こうか。
ベネディクタの首が届けられたあの日の俺の苦しみをお前もとくと味わえ。


王になれると俺を招いてくれた女に手を掛けたのはシドでなく彼本人だと知ってから巨漢は地下にそびえ立つ歴代ロザリア統治者たちの像を粉々に砕き彼をじわじわと追い詰め嬲り殺す為に大地の怒りをひたすら放った。
先に破壊された王座と共にあらゆるものが砕け散り崩れていく。
このまま潰してやろうと両腕を振り下ろした瞬間、弟の盾になろうと幼い時から受け継いできた剣技の術を全身で放った。フーゴは両腕を切り落とされ怒りと嘆きで血まみれの地面を叩く。
同時にタイタンの力が流れ込んで来た。フーゴは確かにベネディクタを愛していた。後にクリスタルによる幻想を視るほどに。
残った力でガブが取り戻してくれた剣を再び構えようと—…。
「ミュトス」
妙に含みと艶のある声と共にタイタンの力を失った男が連れ去られ。

受け継ぐ者が途絶えた黄昏行くロザリス城をカブとジルに気づかれないように見送る。
具合を崩したジルを優しく抱きかかえトルガルの様子をガブと気にしながらロザリアを後にした。


(あなたの想いが伝わる。だからあなたへ伝える。)
ジルが優しく手紙へ綴ってくれた。
大切で大好きだった思い出はきちんとここにあるの、と。

あなたとまた会えてあなたと居られるから失わなかった。

真黒な海、暗黒の大地。
君は月を見ていた。
彼女は変わらず彼の手を愛おしく取る。
あなたに伝えたい想いがある。あなたがあなたでいるのだと伝わる想いがあるのだと。

人からさらに離れあいつらの思惑通りだとしてもそれを踏み越えて君のドミナントとしての過去を視た。
そして伝える。俺が君の罪も背負う。檻から解き放つ。

君とだけの誓いと共に。人として愛して共に生きていくと。


あなたの想いが伝わる、私は涙を流しながら伝える。
あなたとあなたとの誓いを受け入れて。
いつか、ではなく。その時が来たらでもなく。
今ここで、あなたと誓う。それが人へと戻った私の生きていく意味。


思い出の日-ふたりにとって始まりのあの日をキスしてから語り合う。ふたりきりで過ごしたあの丘と同じ花たちに囲まれながら。
「大好きよ、クライヴ」
真っ直ぐに君を抱きしめた。君から伝わる想い。俺もまたひとりの人として君を愛して生きていく意味を伝える。