クラジル多めです。
短い話をまとめたものです。両想いだったり両片思いだったり。
子供の頃の話も書いていきたいと思いつつふたりの恋が本格的に始まったのは青年期以降だと考えています。


・その距離

※ヴィヴィアン先生とオットーから見たクラジル。
寄り添っているんだ、とオットーが笑って語っていた。
ヴィヴィアン・ナインゲールは理性と理論、そして歴史は真実を残すべきものだと提案していた。ここのところは揺れがちであるが。
教育というものは難しいものなのだ、などとこぼしてもみろ。ミドを含め私が関わることになった教え子たちはどうなる。
このヴァリスゼアが求めている“人材”にしてもクライヴをはじめとして彼らが語る“人”にしろ、仮初めでしかないものに縋ることが生きると思っている彼らを救えるのだろうか、と疑問に挟むのではなくあくまで彼の意思を問う為にヴィヴィアンは何度か尋ねることがあった。彼の答えは変わらない。そのことに安堵感を得たと同時に、なら私自身はここ最近浮かんできたある思いに対してどうあるべきなのだろうかといまだ迷いがある自分に苛立ちを感じる。
ただ分析と真実を求めていればそれで良いのか、それとも別のやり方が必要なのかという。
クライヴに尋ねてみようか、と思ったことは何度かあった。そして否定した。決めるのは私自身だ、と頭と理性では理解出来ているのについていけない感覚がある。感情とは厄介なものだ。自治領のことだって、実のところ心の整理が出来ていない。
サロンにでも行ってお茶にするかと拠点の中に与えられた自分の居場所を出て行くと、ちょうどモブハントの依頼をネクタールに頼まれているクライヴの姿があった。そのすぐ隣にはジル。
普段はそうした気配はないし、特に気にもしたこともないが。
あのふたりは一緒の時にどこかお互いに対して独特の雰囲気を出すことがある。ああ、今正にそうか。語ろうとしないクライヴ(彼はそういう傾向がある、さすがに私がアイデアを出すまで立ち去ろうとしなかったのは参ったぞ。根気があると言えば聞こえは良いが、一歩間違えば暴君だ)にジルが近づいてじっと彼を見つめている。
「おっと、先生。どうかしたのか?」
「オットー。いや、たいしたことではない」
「たいしたことじゃないって口にするのは何かある時だぞ」
「拠点の皆は…お節介だな」
階段下からふたりを見上げる形で気づかれない程度に会話を続けた。
「あのふたり…」
「ん?クライヴとジルのことか?」
「親しいというか仲が良いというか…近いな」
「何を当たり前のことを・・・・んん?」
いやいやいやいや、先生のことだ。たぶんあれだほら、生物が魔物になってしまう原因を考えるとか歴史上何度もあった営みとかに関して学者として分析しているとか、そういうことだろう。というか、そうであってくれ。
「私はクライヴと情勢について語るのはけっこう楽しみだ。嗜み、といっても良い」
…そうではなかったら、一体どうすれば。オットーの顔色がみるみるうちに青ざめていく。
「饒舌というほどではないが彼は聞くことに早く、しっかりと自分の考えと意見を出してくる。今はそうではないようだが…」
「ああ…良かった、そういう意味か。あいつをリーダーに推薦したのは俺だ。シドと誓ったんだと名乗り上げてくれたからな。先生も気づいている通り意思も強いからな。それと責任感も強い、そんなもんだからあいつはひとりで背負おうとしちまう」
クライヴがドミナントである以上普通の人は無論、クリスタルを介さなくても魔法が使えること以外は普通の人であるベアラーであっても立ち入れないものがあることは彼らも分かっている。そしてドミナントではあるが、彼は特殊で例外な存在であると皆が分かっている。
それでもついていくと決めたのはその意思に惹かれてのことだ。
「ジルも同じなんだよ、先生。あいつがひとりで背負わなくても良いように寄り添っているんだ。俺たちは俺たちのやり方で、ジルはジルのやり方で」
「それぞれのやり方で…か。近いようで遠い、遠いようで近い距離だな」
「先生いつから詩人になったんだ。まあ、あのふたりの距離感は俺たちでは出せないものもあるからな、たまにはそっとしてやっておいてくれ」
「ふむ…。何だか真新しい感覚に包まれているようだ。全く、さっきまで感じていた苛立ちは何処へやら。自治領やカンベルでは周りなどお構いなしに没頭していたのだがね。ここは…不思議なことばかりだな」
喉を潤しに行ってくると颯爽と去っていく彼女にオットーは先生も可愛いところがあるものだとしみじみとした。そして。
「それで良いんだよ、先生」
来たばかりの頃と比べて柔らかさを感じるようになったのは、彼女もまた人らしく生きているということだ。
ふと話の的となった当の本人たちを再び見上げてみれば。
ネクタールとのやり取りも終わり、書庫の方で新しく持って帰って来た本の話をしていた。ロザリアのおとぎ話の他に子供たちの読むものも増えた。自分の子どももここにいてくれたらとオットーは一抹の寂しさも覚える。
おとぎ話の世界は時折残酷だ。このヴァリスゼアの世界は辛くて悲しく厳しい現実が続いて来た。おとぎ話では魔法は使えるまま。
ヴァリスゼアはこの先―…。断ち切られたものに縋り続けるものはいない。
強制的に変わる、神話の舞台。人と人との距離が変わるのだ。ふとした瞬間に見つめ合い微笑み合うふたりにそんなことを思った。本当の意味でその人を探して見出すのだと。
(まあ、先生が突っ込みたくなるくらい距離が近すぎるっていうのは俺も思ったりするな…。
ロザリスで6年くらいだったんだろ?5年経ってからようやくって…うん、だからよ近いって。)


※両想いなのに相手が大切すぎて片想い期間も長いのがクラジルの特徴な小話2本。

※噛みしめる(ジル→クライヴ)

声は出せる。あなたの姿をみて笑顔になれた。抱きしめられた時、あたたかさを感じた。そっと、手を重ねた。
子どもの頃にふたりで月を眺めた日を、忘れたりはしなかった…。
シドが足を滑らせたとき、あなたとシドが軽口を叩きあっていて。
これからマザークリスタルを破壊して、その後はもっと迫害が厳しくなると分かっていたのに。ふたりを見ていて、何だかほっとしたの。
私は心が動いているのだと。
あなたと過ごした5年間の間はこのヴァリスゼアの現実から逃げることも目を背けることもしなかった。あなたがいてくれたから、あなたと一緒にいたいから…。
この因縁は断たなければならない。そうしなければ私は本当の意味で人なのだと言えない。
ずっとあなたといられない。
天の水門から降り注ぐ強い雨を避けるために隠れた洞窟にて寄り添う。トルガルは入り口付近で見張りをしてくれている。
少し濡れたけど、それ以上にお互いに寄り添い伝わってくる体温が心地よい。
「休もう、ジル」
「ええ‥‥」
インビンシブルが今の形になるまで、あちこちで潜伏を余儀なくされていた間もこうして傍に寄ってお互いを確かめ合った。離れていた間を取り戻す以上に大切なこと。何も知らなかった私たちはヴァリスゼアの真実に向かい合わなければならないのだと。
肩に頭を乗せて瞳を閉じる。鼓動が早くなる。彼の傍に居られることが辛いことが続く日々でも、私が生きている証となっている。
(これからもずっと…あなたと一緒にいたい…)
マザークリスタルはあの国にもある。いずれ、必ず戻ると決めていた。
「…新しい拠点がある。これからも一緒だ」
炎を灯らせ辺りに灯りを、心にも灯りを灯してくれるあなたがそう伝えてくれる。
「ありがとう…」
ちょっとだけ眠ることにした。悪い夢が悪い現実に繋がっていたあそことは違う。目が覚めたらすぐそばにあなたが居る。何よりもそれが嬉しい…。
あなたに甘えることは出来ない。でも、その時が来たらこの想いを伝えさせて。もう、離れたくはないの。

※泡沫(クライヴ→ジル)

「ジル、大丈夫か」
女性特有の痛みだろうか。部屋で横たわっている彼女にそっと声をかける。
「クライヴ…大丈夫よ。少しめまいがしたから…」
日差しがなくなってしまったからなのだろうか。
優しく頭を撫で温かいものをもらってくる、とトルガルへジルを任せてメイヴの酒場に向かう。エールではなく温かいものを頼むとミルクを小鍋で温めてくれた。
木のカップで受け取り、ジルの部屋へ再び。
「温かいミルクだ。飲めそうか?」
「ええ、ありがとう…」
ゆっくりと身体を起こすのを手伝い湯気がほんのり立つ木のカップを渡す。両手で包み込むように受け取ったジルはそっと口をつけた。
「温かいわね…美味しい…」
「良かった。飲んだら、少しでも眠った方が良い」
「ええ…。ねえ、クライヴ」
「どうかしたのか?」
「眠りにつくまで、ここにいてくれる…?」
幸い今は火急の用がない。構わないが…と答えるとジルがにこりと微笑んで再び木のカップに口をつける。
きちんと飲み干してから、横たわってこちらをじっと見つめてくる。
いったいどうしたというのだろう。温まった身体が冷えないようにすっぽりと掛け布団で覆い優しく頭をまた撫でるとぽつりと彼女はこぼしてきた。
「ここにあなたがいてくれるの、すごくほっとするの…。今朝ね、夢を見たの。あなたとジョシュアが…黒の一帯をトルガルと走り回ってもどこにもいなくて…クライヴ、ジョシュア、どこなの…そう叫んだら目が覚めたの」
13年間…ずっと離れ離れだったことを思い出す。ジョシュアとは18年間も、だ。君もそうなのだろうか。
「これからも一緒だ。俺もジョシュアも、ずっと一緒だ…ひとりにはしないさ…」
「うん、そうよね…。あの国では、もうあの頃に戻れないと諦めてた…。あなたが助けてくれて、ジョシュアも生きていて…だからこそ、こわいの…」
待っているだけは辛いのだと普段から抑えがちな君がドレイクファング破壊後に戻ってきた俺にそう語り掛けた。

大丈夫だ、とは言い切れない。だからこそ君は俺を守ろうと戦っている。
手を取りぎゅっと握りしめる。ここにいるのだと、今のこの時もこれから先に繋がっていくのだと伝える為に。
ジルは安心したのか、目を閉じて眠りについた。トルガルの方を向くとすくっと立ち上がり。開きかけている扉の向こうから申し訳なさそうな気配を感じる。さしずめオットーか。今すぐ拠点を出なければならなくなった。
静かに行くぞとトルガルに目配せし、トルガルは先に開きかけの扉から出ていく。そっと彼女から手を放す。温もりが残る。
今はまだ誓いの時ではない。でも君の想いを泡沫にはさせない。
(必ず…そう遠くない日に…)
君に誓おう。


その音(FF16:クラジル)
※影の海岸のカットシーンの様に、雰囲気は大人向けなふたり。
所謂行為的なものではありません。


沛然たる天から降り注ぐ水の珠は大地を割るのではないかと錯覚するほど轟音を立てていた。
異変が起きてからそれほど時が経っておらず、果たしてこの空の下で恵の雨は降るのだろうかとヴァリスゼアの人々の不安が別の意味でも掻き立てられる。これほどの激しい雨はここ何十年も起きてはいなかったからだ。
かつては召喚獣同士の戦いが起きれば、大地のエーテルは歪み、地形そのものが大きく変動をするーここの所それは連日に起きているマザークリスタル消滅と共にエーテル溜まりが生じ、ますますこの大陸が混沌の焦土と化し終末へと向かっているのだと人々は怯えていた。

風の大陸の中央黒の一帯ベンヌ湖に浮かぶ拠点—インビンシブルに戻ろうとしていた道中この強烈な雨を避ける為にすぐに見つけた洞窟の最奥で一組の男女がお互いに寄り添っていた。
洞窟付近では大地を叩きつけるかのように落ちた水の珠は霧となり、付近を濡らす。これ以上身体を冷やさない様に身を寄せることにした。
今はまだ昼間なのだろう、それでも陰っているこの場所でフェニックスの羽根から熱くはない神々しい輝きを思い起こす。
インビンシブルで合流する予定だった弟の方も近くに相棒である狼と共にいて無事なのだと男は語った。普通の“人”にその気配は察知出来ないのだが“今”の彼には可能なのだ。
逞しい身体だけでなく傍に立てかけてある大剣は男の手練れた戦歴を。その精悍な顔つきがまるで何かの運命に抗うかのような意思の強さをそして優しさとどこか憂いを含めた青い瞳がこれまでの出来事を受け入れてきたのであろう真っ直ぐに前を見つめていた。青年時より伸びて濡れた黒髪を少し乱暴に拭いそして静かに雨の音に耳を傾けている。

この世界に起きている異変と混沌を受け止めているのだ。

女の方はしなやかな体つきでその白い肌に白銀の長い髪が非常に調和しており類まれな美貌と麗しさがそこだけ周囲を明るく見せていた。
凛とした芯の強さもその透き通るような青い瞳に映し出される。
男が視線を向けている外の様子が気になるのか身を乗り出そうとして小さくくしゃみが出た。
彼女が元の体勢に戻るより前に彼は己の腕の中に再び抱き込む。

「冷えるぞ」
「…雨、止まないわね」

今は休むことを考えようと視線を彼女の方へ向け。引き寄せられた胸元で彼の鼓動を子守歌代わりに聴きながら静かに目を閉じた。不思議と雨の音が遠ざかっていく。
魔法は使えず不意に訪れたふたりだけの時を過ごしお互いに寄り添って生きている意味については考えるまでもない。

早まっていく彼と自分の鼓動の心地よさを全身で感じながら身を委ね静かに眠りにつくことにした。


※影の海岸にて(黒の一帯)魔法が使えないそこにいるのはただのふたりの男女。という意味とテーマ性があるカットシーンもジルのテーマ曲アレンジも含めて好きなのです。


寄り添う


夜も更けていく静まり返ったダブアンドクラウンにてジルとタルヤはふたりで小さなお茶会を開いていた。

ジル「クライヴのどこに惹かれている、ね」
タルヤ「無茶をしないようについて行くと啖呵を切ったわよね。そういう危なっかしいところも放っておけないわけ?私は腹立つことの方が多いんだけど」
ジル「…守りたい、と思っているわ。
けれどそれは失ないたくない想いだけではないの。優しく引き寄せられているの」
タルヤ「‥‥」
ジル「…クライヴは無理強いしないから。私たちのしていることは大部分の人たちは受け入れられない。望まれて行なっている訳でもない」
強制や本人の意思を否定するような強請を彼は行なわない人なのだ。可能な限りその人の意思を尊んで生そのものに向き合っている。
だからこそ残された時が少なくそうした中で世界を変えなければならない戦いの渦中にいる彼を。そして所詮は手の上の出来事でしかないと嘲笑うかのようなこの世界の理と現実へと。守り、抗う為にジルは隣に立つと決めたのだ。
「このヴァリスゼアで起きている現実を受け入れて彼はひとりひとりへ目を向けてその人を見出してくれる。
優しく、そうしてくれるの。
ジョシュアも私も小さい頃から彼のそうした所が大好きだったからこそ離れ離れになっても大切に想っていられたのだと、今ならそう分かるの」

月を一緒に見上げたあの時は忘れられないひととき。
再会してから幾度となく、ある時は震えある時には凍えそうになる辛い現実に直面しても共に在て(いて)お互いに手を取りそして心を手探りで引き寄せながらそっと月を見上げた。
メティアは変わらず赤く美しく輝いていた。
彼が生きていて願いが叶ってから生きていた―今共に生きている意味について幾度も心の中で反復した。
優しく愛を込めてその腕の中で彼の名を呼び彼に自分の名を呼ばれるあたたかさを感じながらお互いの命の鼓動を奏でる。
タルヤ「シドと出会って命のやり取りの意味を、クライヴが新しい拠点で皆の居場所を作ってくれて―
インビンシブルに皆を引き寄せて今生きている意味…確かに私の中でも変わっていったわ」
ジル「きっと、それも人らしく生きていることなのだと、私はそう思うの」
タルヤ「幸せだとずっと感じている訳ではないしこれが全て正しいとも思っていないけれど。私は私の役目を、誇りを持って最後までやり遂げようと決めている。ジル、あなたもそうなのでしょうね」
ジル「さあ、どうかしら。けれど、これだけは言える。
彼にはずっとそうやって優しく引き寄せられて生きてきた。あたたかくて優しい炎がここに灯っているの」
タルヤ「絶やさないように出来るわ。インビンシブルはそうした居場所だもの」