クライヴとジル。
様々な時間軸のクラジル。




分け合う(クライヴとジル)

温かいものなど、随分と口にしていなかったとクライヴがケネスの食堂にて料理を運ぶ時に声にし、それ以来彼とジルが食堂のテーブルやカウンターつく時には何かしらひとつ以上は温かいメニューが提供された。彼女が過酷な状況に置かれていたことは拘束具や鉄王国のドミナントに対する扱いが暗殺部隊に居る時にも時折各地の紛争から話題に上り。その時はシヴァに関しても北部の生き残りの誰かがロザリアが皇国領内に入った時に連れていかれたのだろうとそう考えていた。ずっと望まない戦いの日々だったのはジルも同じで。
シドの隠れ家を失ってからも、インビンシブルをベンヌ湖にて見つけてからも。
協力者の元で食事をするときや何かしら栄養には重要な野菜と果物を選ぶときもなるべくふたりで揃いながら食事を取った。協力者の元であってもずっと彼らがまとめ上げている村や宿にて世話になり続ける訳にもいかない。マーサの宿にて泊まりや食事を提供してもらうのは避けて軽めの食事を取るためのテーブルだけ少しの間借りることにした。マーサが戦った後の身体をほぐすにはちょうど良いお茶ですと温かいものを出してくれて。
ふたりで礼を告げてからインビンシブルも完成に近づいている、同時に今度保護出来たベアラー達は石化がそれほど進行する前で元気だとそっと告げると。悔しい思いしていたのが前に進めているみたいで嬉しいねとほほ笑んでくれた。
ジルがポーチからモリーが寄越してくれたクッキーを取り出す。ケネスのメニューを引き継ぎながら(そうした訳でシチュー料理が定番である。後にイヴァンが紫色のメニューを開拓するくらいには)ふたりがすぐに出て行こうとするとすりおろしたニンジンを生地に練り込んで朝早くから焼き持たせてくれたのだ。残った皮は設置したばかりの植物園へと持って行って肥料の足しにすると言っていた。買ったばかりの果実もジルが器用に小さなナイフを取り出して剥いてくれた。皮ごと食べられるものだから無駄が出ない。
身体というのは取り入れるものから大きく影響が出るもので。そしてふたりで揃って食事を取るようになってからもうすぐ5年が来ようとしている。生き残った彼らと新たな拠点探しながらベアラー保護と、このヴァリスゼアを見て回ることにした。
それまで出来ていなかったこと。辛く厳しい現実が日々押し寄せていた。助けられなかった命も、沢山ある。
向かい合い静かに食事を取った。しっかりと食べ終わってからまだ温かい飲み物に口をつけ、そしてそっと彼は彼女を見つめた。彼女も両手で木のカップを持ちながら縁に口をつけ温かいものを身体に流し込み。
そして優しく、どこか切なく…はぐらかす心のまま—彼の視線に応える。

彼女は、未だ本心を彼に伝えようとしていない。
それでも、送られるその視線から注がれてくるもの…それらを受け止めていく。
5年少し前まではもう失われていったのだとさえ…心の中の望みさえ押し込み願いを止めて。自らを凍らせていたその奥底で。温かい、と感じられるのはこのお茶のおかげだけではない。
また、辛い現実を目にして戦いには出る。
まだ、彼の想いを受け入れるというのは、出来ていない。出来ない。
それでも、心で感じられているとそう何かが新しく…再び、なのだろうか。
目覚めているのだとこの5年という時が経ってそう考えられるようになってきた。
さきほどの果実のように、幾度となく何かを手にする度、見つける度に分け合い。そうしてお互いがちゃんと傍にいるのだと確かめ合っても来た。
クライヴの険しかった目つきはだんだんと変わり目の前で起きているあらゆる事柄を受け入れながら、優しいものへとなった。傷ついたとしても、人へ…誰かに愛を示すことは忘れなかった。傍らにいる自分が本当に確かに、それを感じられるはずなのに。
ことりと彼女と彼が木のカップを置き、彼の右の手が彼女の右手の甲に触れる。
何かを告げる訳ではない。そっと触れてまっすぐに見つめると静かに頷いてくれた。
彼女も静かに頷く。

大丈夫だ、無理はしなくて良い。
そうした当たり前のことが言える世界ではこのヴァリスゼアはないのだ。

だからこそ、痛みも苦しみもある。
そして、大切な想いをお互いに分け合いたいと。
(まだ…出来ないの)
それでも支えてくれている彼女に感謝していると彼はしっかりと言葉にし。
お茶のお変わりは大丈夫ですかとウェイトレスが近づいてくる前に立ち上がり、世話になった、また来るさ(ストラスを飛ばし連絡するという意味である)と礼を伝え出て行く。

外で待っていたトルガルが近づいて来た。ぽんぽんと頭を撫でてから一旦戻って体制を整えようと振り返り彼女に伝える。
明日はまた厳しい戦いである。彼女も覚悟と共にしっかりと頷いた。
彼が先に進み出て、気づかれないように己の右手を眺めた。

傍に居て、分け合って、そうしてー。
いつか、そう、受け入れらえるように。

凛とした歩き方で彼と相棒の後を追っていく。次に目指すのは、ダルメキア共和国。
罠だと分かっていても、歩みを止めない彼の為にも。
分け合い、支えて…補えるように。


その後ろ姿

(クライヴ→ジル寄りのクラジル)

思い出の始まりとして君の後ろ姿。その背から浮かぶのはふたりで—俺が君の手を取り話すことはなく抜け出してあの丘へと辿り着いたあの日。
それまでずっと迷い戸惑い。居場所がないのだと寂しさを感じていたその後姿はしゃがみこみその花をひとつひとつ摘んで。花冠が完成する頃には歓喜に溢れていた。
立ち上がり右腕に花冠を通し。左手でスカートについた葉を丁寧に落として。
そうしてすらりと立った君の表情は朗らかで青空と日が優しく射す光の下でとても可愛らしかった。

次に思い出せるのは俺自身が初めて戦いに向かう鉄と火の国としてマザークリスタルドレイクブレスの所有権が属しているあの国へと。
因縁があるとすれば、何も知らないまま。運命の下に覚醒するのが遅ければ。俺だったはずだ。
ロザリアと北部地方から故国に住まう彼らの為にと奪還すると父上や将軍と共に決意を固めていたからだ。何も知らず、クリスタルは祝福であり生き残る為の唯一の救いなのだと考えていた—…そう、大陸歴から来る歴史から教えられてきたからだ。
現実は人を幸せにせず、支配に置くためだった。俺も君も逆らえない命令の下、考えることも心さえ押し殺して。己の手でたくさんの命を奪った。人であることを、捨てていた。
そうするしかなかったのだと君のその背から…今は俺と共に。もう心を凍らせたままいたくないと。人でありたいと…君の心が“俺が支える”とその背に手をやり、そっと引き寄せて傍でお互いを確かめ合うと涙と共に伝わる、感じる。

お互いの想いに気づいてから君は俺をそれまでもしてきてくれたように—・・・シドとの誓いだけでなく。
俺自身への想いを大切に抱えながらトルガルとアンブロシアを先に駆け巡らせ前に進む俺の後を必死に付いて来て時には隣に立つ。
大切であり、君が好きなのだとそう幾度も感じていた。


真っ暗な夜、真っ黒な海と大地。
背中合わせなのは何をどう話して良いのか。これからどうすれば良いのか見えてこないからだ。エーテルの絶えたこの海岸と同じく。
月を見上げ君は語る。再会してから5年間の間も。今までもずっとしてきたこと。
顔を見合わせず直接伝わるあたたかさから君がずっと俺を見つめてくれていたことを思う。
だからこそ、自分が怖くなる。
“君は俺が怖くないのか”
人でありたいと、人らしく過ごせているかしらとそれを願い話してくれた君の目の前にいるのはもはや人ですらない俺なのに。
君は俺に寄り添い—あなたはずっと変わらない—・・・小さい頃からずっと誰かを助けようとしていたとそう伝えてくれた。俺を守るために生きると。


ジョシュアとふたりであの花を再び見つけた。
あの日と同じ様に君を連れ出すと。君は語り出した。北部では部族の代表たちが首領である彼女の父親に娘の利用価値についてどうするのかと話し合っていたと。
誰にも何をしたいとか、どうしたいのか。どうすれば良いのか、ずっと言えないまま。
ただ言われた通りに静かに頷いてロザリアに来たのだと。
ロザリアに来てからもずっと…何もできず何にもなれない自分がただぽつんとそこにいるのだとそう感じていたのだと。
“あの日に、あの丘で。それがすべての始まりだったの”
その後ろ姿から氷の民が受け継いできた氷の召喚獣の力を失い。
人に戻ってから出来ることがないとインビンシブルでも我慢していると感じていた。
「私に出来ることはもうこれくらいしかないけれど…」
同じ花冠を手にして香りから思い出すあの日。
「俺には出来ないことさ」
満たしてくれる、愛する人へと変わってから。その後ろ姿からだけでない。
まっすぐに俺と向き合い抱きしめ合う君から伝わる愛をしっかりと共に受け入れて。
そうしてふたりでまた歩んでいく。


静かな夜

※ほんのりとしたクラジル


クリスタル自治領に向けてクライヴとジルは慣れた様子でクライヴは愛馬(チョコボ)であるアンブロシアに。
そしてジルは借りた一頭に乗ってまたダルメキアへの旅へと向かった。
馬を1日休ませることなく走らせたとしても数日は掛かる旅路だ。
先に自治領へ向かう為のボグラド市場にて未だ見ぬ協力者たちの元にいるグツをあまり待たせたくないところであるが、ジルは体調を戻して間もないのもあり。借りて来た馬(チョコボ)のペースもある。
アンブロシアやトルガルと共に先行しながら時折そっと視線を後ろへ送る。
彼女はしっかりと頷いて共に付いて来てくれていた。

砂漠の夜は冷える。
黒の一帯に沈む湖のど真ん中がクライヴたちの今の隠れ家であり。
そこから南に突き進むとまだ黒の一帯に脅かされていない緑が少ない荒野が広がる。
ダルメキアの領地である砂漠は間近であるが夜になると一気に冷えることもあり。
その手前で自らの掌に弟から信頼の証として得た炎を灯し。
そして火を起こした。その間にジルが優しく馬を撫で。ありがとうと礼を伝えていた。
先に水を飲みに出ていたアンブロシアが戻るとそちらも彼女にキュイと挨拶を送り。
そしてトルガルと共に水を飲みに出る。
アンブロシアの頭を優しく撫でクライヴも礼を贈り。括りつけていた荷物をほどきながらギサールの野菜をクチバシにはませる。
アンブロシアは音を立てることもなく器用に食し。そうした面からの彼女の気高さを感じた。

別の所で水筒に汲んで置いた水を鉄の小さな鍋に注ぎ沸かす。
その間にジルがマーテルの木、そして果実だと今の拠点の中で名付けられたりんごを取り出し小さなナイフでカットしてくれている。
クライヴは隣で干したニワトリスの肉を二等分武器としては扱わない短剣で2枚におろし。モリーが持たせてくれたワインに付けておいた乾燥イチジクを混ぜ込んだ固めのパンを旅の日数に残りを合わせてスライスする。
湯が沸く頃には仕度も整い。もう一頭の馬(チョコボ)とトルガルが戻り。彼らにも今日の疲れを取るささやかな食事を。
辛い現実をずっと目の当たりにしながら共にふたりでヴァリスゼアのあちこちを5年という歳月と共に過ごして来た時と変わらない静かな食事を取り始めた。

アンブロシアともう一頭の馬(チョコボ)は体ごと沈め頭を垂れ。
トルガルも焚き火のそばで巨体を伸ばしながら横たわり。
クライヴとジルはそれまでしてきたようにお互いに寄り添っていた。

彼女と再会をするその時まで。
焚き火を眺めそのはぜる火の粉と炎から彼が思い出すのはあの日の惨劇だった。
弟を失い。戻ることも出来なかった故郷も失い。
暗殺部隊にて雑兵として扱われながら本来の名を呼ぶ者はいなかった。
ジョシュアを手に掛けた奴を忘れるものかとそれだけを考えて。

兵器として扱われて来た彼女はこうして炎を眺めたりはしなかった。
拘束具を嵌められたままきつく縛られ。顔を上げようものなら目の前で少女たちが痛めつけられているという何も変わらない現実。
何も出来ず、叫ぶこともなく。目の前の者たちを殺せ化け物。その命令だけが日々の繰り返しだったのだ。

今ふたりで寄り添いながら思い出すのはヴァリスゼアを見て回って来たこの世界の現実だ。囚われていた日々ではない。
ふたりで―今こうして手を繋いでいるのと同じ。彼は受け入れながら。
彼女はその彼の傍で時には隣に立ち。受け止めながら。
ひとりでは決して出来なかったシドの夢をインビンシブルの皆と叶える為に日々を重ねて来た。
彼が彼女の手を取り握りしめる時。
彼女が彼の手に自分の手を重ねる時。
互いの決意と、互いへの想いを確かめ合っていた。

あの国で彼女が因縁そのものであった男を断罪し。
人らしく生きていくとひとつひとつのことを彼に尋ね確かめ合うようになってから。
そして人らしく生きていくのだとインビンシブルからまずは始めようと拠点で暮らしている彼らへ信頼と共に繋がり注いでいる想いとは別に。
お互いに特別な—それは感情であり。想いそのものであり。繋がり—そしてやがては誓いそのものとなっていく。とてもあたたかく時には迷い、どこかで失うことを恐れもしている…そうした内なる大切なものが互いにあるのだとクライヴとジルは自覚している。

「…寒くないか」
ふたりで毛布にくるまりながら彼があたたかく彼女にそう尋ねる。そして優しく引き寄せる。彼の炎を彼女に注ぐように。心がもう凍り付かなくて良いように。
彼女は身をさらに寄せ。灯る炎をじんわりと心に受け止めていた。
「大丈夫…。こうしていられるから」
帰る場所とは、違う。
未だ何かを成し遂げた訳でもない。むしろ真実に辿り着いていないこの大陸はこれからさらに混沌へと投げ込まれる。
それでも確かにここにあり。
そしてお互いに見出せた愛おしい想いを胸に。静かな夜を過ごしていった。


半身

クライヴ→←ジル

フェニックスゲートに向かう漆黒の森において。
ここもかつては美しい場所だったのでしょうねと彼女が語り。真っ黒な湖を同じく目にした彼はそれに頷いた。
彼が何か語ると彼女は静かに頷き、そうして多くのものを失った後で再び歩みお互いを補いはじめた。

再会出来てから5年経つと助け出そうとしているベアラー本人たちに責められて彼とインビンシブル内にて精力的に動いてくれている彼らー仲間たちの為に代わりに彼女が諫めることもあった。その時は彼女が責められないように彼がその流れを止めすまないと告げてそれを担う。そうしてシドの夢と罪を背負って行く。

自治領へ向かう馬(チョコボ)が引く荷台は大人二人だとやや狭いがグツが苦労して見つけ出してくれたものだ。
それにクリスタルロードを使えるというのはかかる距離や日数としてもやはり都合が良い。元からクライヴとジルも騒がしい性分ではないので結構揺れる馬車の中ふたりで静かに寄り添っていた。
時刻は昼下がりだろうか。箱の隙間から差し込む光の加減で気づいた彼女が自分のポーチから干し固めた果物と小麦と砂糖を少しのバターで混ぜ込んだエルイーズからの菓子を取り出す。
彼がそれに合わせて普段から身に付けている水筒を取り出した。
水を入れると重たいので大抵クライヴの担当となる。彼らのポーチは大工房の彼らが更に丈夫にそして滑らかに手を入れてくれている。
他にはカローンの店にて彼女の目利きから回復薬(ポーション)や身体能力を向上させる薬も入っている。ジルは彼のものとは別に難民街で声を掛けてくれた薬売りの少女の熱意に応えて上げられなかったのも含めてか傷口を覆う包帯や消毒薬を少し。それとこうしてすぐに口に含められる菓子も持ち歩くようになった。
それぞれの必要なものをふたりで、半分ずつ。
ぱきっと乾いた音と共に円型の菓子を半分に割り彼に渡す。ふっと優しい笑みを浮かべ礼と共に受け取り。身に付けていた水筒を彼女に渡した。
ロザリスで出会ってから城内でははしたないと特にジョシュアが母を含めてその取り巻きの貴族から怒られるので3人で許可がおり。そして外に出られた時によくこうしていた。
今はまだ弟には会えていないが再び行動を共に出来たのなら。その話をしたいと切実にふたりで思う。生きていると分かったあの日から今この瞬間もずっと願っていたのだとジョシュアに伝えたい。
干した果物も、飲み水もお互いに半分ずつ分け合い。
そうしてどちらともなく手を取り合った。シドの前で誓ったあの日から度々こうしてきた。お互いに何かを言葉に託すより寄り添いここから伝わるものをずっと、まっすぐに。
手を繋ぎながら彼女が彼に寄り掛かりその肩に頭を乗せて。彼もそれに頭を寄せて応える。
あなたにあるものを守り支えたいと。
俺も君を支える。そしていつだって俺に足りないものを見つけ支えてくれる君に感謝を。
クライヴが繋いだままの手の握る力を込めた。
ジルもきゅっと優しくそれでいてしっかりと返す。
決して心地よくはない揺れの中でもここに居るのだというこの距離がふたりを安堵感と共にお互いの存在を心に染み込ませていく。

風の大陸最後のクリスタル破壊はもう目の前だ。
まだふたりがお互いにとって半身であり対等であった時のほんのひとときのこと。

手作り

ちょっとだけクラジル

城下街に降りるとちょうど自分達と年が近い女の子3人が集まって果実を見て回っていた。
隣の男の子にね、砂糖で煮てジャムにしようかと思うの。
リンゴにする?柑橘系だと皮が無駄にならないよね。
野イチゴはどうかしら。それはまだ季節としては早いよって母さんが。
何でも、一生懸命に作ったらさ。ちょっとだけでも私の…ううん、作ってくれたんだって喜んでもらえたら。
良いじゃない!良いよー!

何だかとても楽しそうな様子だと隣で歩いているジルに語りかけると。
クライヴ、何か手作りで食べたいものはあるかしら?と尋ねられた。
侍女達が本当によくしてくれているからな。どれもとても美味しく頂いているよ。ジョシュアの身体を気遣ってくれていて助かっていると返すと。
ジルはそうねと優しく微笑んでくれた。
この話はあの日ここで終わった。


ノースリーチのマルシェでミドの大工房とは異なる用事にふたりで買い物に来た。皇国民がほとんどこのドラゴニエール平原から去り。黄昏行くこの街でも残ったり訪れている人々はマダムイサベラの助言もあり活気ほどでなくても比較的穏やかに市場でのやり取りがある。
パンのことばかり楽しそうに語っていた時とはまた違いジルはひとつひとつの果実を眺めクライヴへ尋ねる。
「…とても久しぶりだけど、果実を使って何か作りたいの」
ずっと長い間出来なかったこと。誰かの為に。その人が喜んでくれると分かっているからこそ。
これまでのベアラー保護活動やクリスタル破壊では痛みや苦痛を伴う結果をお互いに覚悟を決めながら感謝が送られることもなく。時にはナイフで突き刺すような痛みを己自身で感じながら進んできた。
そうした最中でミドの依頼からとはいえ、本当に久しぶりに気取らないちょっとした買い物にここへ来た時はとても。とても楽しくて嬉しかったのだろうと川岸で彼女と語り合いながら感じていた。
「良いな。嬉しいよ」
彼女のその姿は忘れ去られたのは別として穏やかな気持ちにもさせてくれたので彼も快く頷いた。
「あら、まだクライヴへと決まっていないのに?」
「俺でなくてもジョシュアやインビンシブルの皆は喜ぶさ」
彼のそうした面は本当に変わっていないのだと彼女も少女の頃のように楽しそうに微笑んだ。
「冗談よ。一番に食べて欲しいの。あ、もちろん上手くいったなら、ね」
あの頃に今日でなくてもまたの機会にと考えていて。ずっと出来なかったこと。
もう会えないのだと諦めていた長い時を超えて。再会してから今日という日をずっと重ね合ってきた。
「甘いもの、得意じゃなかったよね」
「昔はエールもな。けれど皆のおかげで慣れた」

君の手作りの味も少しずつ。これからを重ねて行けば俺にとって大好きなものになる。
飽きたりしない?
もちろん。楽しそうな君の姿がいつでも思い出せるから。
ありがとう、クライヴ。

(あの時からずっと。こうしたかったのだと)
メティアへの祈りとは別のささやかな願いが叶って。
ふたりで馬(チョコボ)たちに荷造りをしながらインビンシブルのタブアンドクラウンのメイヴにもアイデアを出してもらおうとお互いの好きを探し当てていった。



あなたとわたし

クラジル
影の海岸にてのふたり


これまで辛かった事、嫌な事。
逃げ出してはいけない現実。死へ向かうこのヴァリスゼアにおいて。私自身の因縁を断ち、必死で抗わなければ。
その中で時には優しくそして温かく。
人らしくなれたとあの時も今も楽しかったことを語り合えるようになって。
心が動いていると幾度も感じてはいた。

真っ黒な海岸。真っ黒な砂浜。月と隣のメティアだけが覆われた夜の世界でも輝いている。
エーテルの恵みを失った死の大地は手で持ち上げようとするとさらさらと崩れ落ちていく。
トルガルは少し離れた焚き火のそばでずっと眠りについている。
ふたりでお互いに抱きしめ合いながら死の大地の感触より鼓動と触れ合う体温からくる温かさを分かち合っていた。
あなたを守れるならこれからも私は生きていける。
そうして自らを立ち上がらせて奮い立たせてきた。
あなたも私のそばで。信頼していると、助かる、君が居てくれて良かった。私が私で良かったとふとした瞬間に言の葉に託してくれた。
嬉しかったし、役に立てているのだとほっとしていた。
そうした中でせめぎ合いはあった。
人になりたいのに未だ私自身がシヴァのドミナントである。
人に戻ってしまったらー私はもう、あなたのそばには―…。
そしてあなたは抗うための道だと今まで考えていた道を進む度に、人から離れて行って―…。

君の頬にそっと触れる。
そのまま顔を俺の方に向かせキスをひとつ落とした。
少しカサついている己のものと違い柔らかい。
満たされていく、と答えるかのように俺の背に両手を回す。
これまで俺が手を差し伸べたりすると迷うことなく取ってくれて。
自ら手を重ね合わせてきた鉄王国から戻ってからの時は。
気づいてはいた君の想いそのまま触れたい。そう想いが沸き起こった。
今は違う。
父上の元へと向かう俺を仔狼だったトルガルを抱きあげながらその手を振って。涙を流しながらあの笑顔がこれほどまでに俺を満たしてくれる、とは考えたことも無かった。
ただ、好きなのだとはもっと違う別の何か。
ジョシュア以外の誰かに誓うのだと考えたこともなかった。
罪そのものがこれからも己を苛み蝕もうとしても。
この運命に抗うと同じ様に、最後まで。
人として君と共に生きていく。

俺の中に君へのこれほどまで揺るぎない想いがあったのだと生まれて初めて知った。

背中にぎゅっと手を回してくれている彼女と同じくらい力強く彼も彼女を抱きしめた。
ずっとはこうしてはいられない。
もうすぐ夜が明ける。
それでもいまはただこうしていたい。
満たされる。満たしてくれる。
心が動いているだけではない、溢れてくるこの想い。

誓いの夜が明けて。
再会の喜びとなるその日まで。
彼と彼女の。

(あなたとわたし)

お互いがお互いの為に生きていくのだと満たされていくこの時を。

ただ、互いを確かめ合った。